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遠い日に出会ったあの子。

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どすん。

「ひゃっ!?」
「ッ・・!!?」

遠くをぼーっと見て歩いていたらなんかにぶつかった。
小さいらしいそれはコミカルな動きで後ろにころんとひっくり返る。
慌てて大丈夫ですかと声を掛ければ黒のスカートを翻して幼い声で文句を言われた。

「痛いじゃないの、前くらい見て歩きなさいよね!」
「いや貴女も見てなかったと思うんですが」
「う・・・うるさい!この私が歩いてるんだからあなたが避けるべきでしょう!?」

もう、と偉そうな具合で仁王立ちする少女はどうやら自分と同じ存在に見えた。
知らない土地を歩いていると結構同族に出会うことも多い。ふとなんという国なのだろうという疑問が浮かんだ。

「・・お嬢さん、貴女のお名前を教えてはいただけませんか」
「え・・。い、イヤよ!女の名前聞くなんてロクでなしだって牧師さまが」
「随分端的な考えの牧師さまですね・・。じゃあこうしましょう」


貴女の国の名を、教えてください。


「!! あなた・・・国なの?」
「えぇ。アジアの島国で日本と申します」
「あじあ・・・どこかと仲がいいの?」
「今はオランダさんと仲良くさせて戴いています」
「・・・私はまだ国じゃないの。聖マリア修道会っていうのよ。知っている?」
「聞いたことはあります。そうですか貴女があの・・」
「私、いつか絶対国になる。そうなればマリア様の教えがより多くの人に広まることになるでしょう?争いもきっとなくなるわ」
「・・そうですね。私も祈ります。貴女が国になって世界が平和になることを」
「もし・・・私が国になれたら、あなた、仲良くして頂戴ね?」

小首を傾げて言う少女は愛らしく、本当に神の使いかと紛うほど純粋に見えた。
結局あれから会うことはなかったけれど、忘れ去ることなんて出来なかった。

彼女はやはり消えてしまったのだろうか。




「・・うー・・」
「目覚ますなり急に唸ってどうしたんだよ・・・」

気付けば私は恋人の家のベッドの中でその恋人と眠っていたらしかった。
掠れた声の彼は私が体を起こしたせいでできた隙間が嫌なのか体を擦り寄せて来る。

「夢・・ですか・・」
「なにが」
「昔会った可愛い人の夢を見たんです」
「・・・いい度胸だな」
「は?」

遠い所からすぐそばに目線を移すとまあ当たり前なんですが、それはそれは凶悪な顔の恋人がいて。
きっと戦場にいるときなんかこういう顔なんだろうと想像できる。

「違いますよ、そんなんじゃないです」
「一緒だろうが。俺様のベッドで俺様以外の夢みるなんざどういう了見だ」
「案外無茶苦茶いいますよね!!」

昔ヨーロッパで会って、云々という話をちゃんと聞き入れてもらえるまで数十分は要したと思う。

「・・・名前、聞いたのか、その子の」
「えーと・・なんとか修道会」
「お前ふざけてんだろ」
「そんなことないですって!あッ、思い出した、・・・聖マリア修道会!」
「!!?ッ・・!!?」
「え。どうしたんです」
「おまッ・・・最ッ悪!!!」
「何が!!?」

怒る彼を宥めすかして真相を話してもらうのに更に数十分は要したと思う。

「だから!!お前は俺の前身を知らないんだろってことだよ!!」
「貴方の前身・・?ドイツ騎士団ですか?」
「その前!!」
「・・・知らないですねえ。てっきり騎士団が発祥なんだとばっかり」
「まあ別に、今回に限っては知らなくても・・・」
「でもそれで怒ってるって事は、貴方が・・・あの聖マリア修道会ってことですよね?」
「あ・・・」
「・・・・・・・・・昔は、女の子だったんですか?」
「なわけねえだろ!?昔は・・・その・・・・勘違い・・してて・・/////」
「おや。ご自分が女の子だと?」
「だ、だって!マリア像見せられて、これが貴方ですって言われたら普通自分を女だと思うだろ!?」

真っ赤になって弁解を始める恋人を宥めるのに5分くらい。ああなんて可愛い人なんでしょう。
そのうちに恥ずかしくていられないのかぼすんと私の胸に顔を埋めてしまった。

「まあったく、可愛いですね。私はとっても嬉しいです」
「・・・お前、今知ったんだよな。俺とその小娘が一緒だってこと」
「ええ」
「・・・・・俺はずっと、覚えてたぜ。小さい頃会った『あじあ』ってとこの『にほん』って国のこと」
「おや、本当に?」
「ああ。・・・俺も初恋、だったからな////自分が男だって知ったときからもう叶わない恋だって思ってて、でかくなって気付いたら、その初恋の人が目の前で頭下げてる。『貴方の国のことを教えてください』って」
「・・・」
「誇らしいような、悲しいような、不思議な気分だった。俺の方が偉くなったって思いと、ずっと心のどっかで焦がれてた奴に微塵も気付いてもらえなくて悲しくて・・・」

段々小さくなっていく声が消える寸前のともし火みたいで、それを守りたくて。
ぎゅうと胸にある体を抱き締める。
少し慌てたように身じろぎする体を押さえつけていった。

「でも結局、私と貴方は結ばれて、今ここにこうして同じベッドに入って昔話をして・・・!!・・それじゃあ駄目ですか?許してはもらえませんか?」
「怒ってるとかじゃねえんだ。お前も結局俺の夢を見たんだしな。しかも『可愛い』って言ってくれた・・」
「プロイセンさん・・・」
「・・・・あの頃の方が可愛かっただろ?・・・・ごめんな、男で」

寂しげに言うのが聞き捨てならなくて目の前にある白い首筋に噛み付く。
痛ッ、と声を上げたから離すと意味わかんないとでも言いたげな顔をしていた。

「私は今、貴方より可愛いと思う人なんていません。たとえ昔の貴方でも今の方が可愛いです!」
「・・・・お前、バカだろ」
「ええそうですよ」

ふん、と胸を張るとようやくくすくすと彼が笑ってくれて、胸がすっとした。