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クッキー

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ちょうど日が落ちた頃。ジローは棺桶から出た。居間に入ると弟がテレビを見ている。
「おはようございます。コタロウ」
「あっ、おはよう兄者」
 満面の笑みを浮かべる弟にジローもふっと微笑む。
「ミミコさんはまだですか?」
「うーん。なんかね『今日は明日のお休みのために頑張るから。ご飯作って食べてて』って電話が来た」
「そうですか。じゃあ何か作りますかね」
 そうして冷蔵庫を覗き込む。
「ねえ兄者。これ作ろうよ」
 ジローはテレビを指差すコタロウとテレビを見て、
「駄目です」
「なんで!」
「クッキーはお菓子であって夕食じゃありません」
 テレビでは美味しそうなクッキーが焼き上がったところだった。
「でもきっとミミちゃんも喜ぶよ」
「……そうですね。ミミコさんのためなら作りますか」
「やったあ!」
「ちゃんと手伝うんですよ」
 そう言いながら冷蔵庫から材料を取り出す。ちょうど良く揃っている。
「ミミコさんのため、ですからね」
 
 
 



「ただいま」
 疲れ果てた声で入ってくるとミミコはその場に座った。時刻は11時をまわったところである。
「お帰りなさい。ミミコさん。お疲れ様です」
「もう疲れて死にそう」
 机に突っ伏して上目遣いでジローを見つめる。
「あれ、コタロウ君はもう寝たの?」
「はい。さっきまで起きてたんですけどね」
 2人で作ったものを見せるために一生懸命起きていたのだが結局眠ってしまったのである。
「それよりミミコさん。これ私とコタロウで作ったんですけど食べませんか?」
「クッキーじゃない。これ作ってくれたの?」
 クマとハートの形をしたクッキーが美味しそうにお皿に載っている。
「ミミコさんに食べていただきたいと思って作りました。味もまあ大丈夫だと思いますよ」
「じゃあ遠慮なく――いただきます」
 クマ形のクッキーを食べる。さくさくとした食感でほんのり甘い。
「美味しい。すごい美味しい」
「喜んでいただけて光栄です」
 もう1枚、ハート形のクッキーをつまむ。
「ジローさんって料理上手ね」
「そんなことないですよ。まあ昔いろいろやらされたせいかもしれませんけど」
 ミミコはジローのほうを向いて言う。
「ジローさん。これありがとう」
「礼には及びません。明日コタロウに言ってやってください。喜びますから」
「隙あり」
 ミミコはハート形のクッキーをジローの口に入れる。面食らった彼を見て笑う。
「ミミコさん……」
 彼の口元を指でおさえる。
「明日お休みだし……今日のお礼っていうか。嬉しかったし、ね。――要らない?」
 ミミコの言わんとしていることがわかってジローは苦笑する。可愛いな、と思う。ちょっとだけ染まった頬とか。こっちを見つめる瞳とか。
「いいんですか」
「どうぞ。お、お構いなく」
 彼女の手をとり軽く口づけする。真っ赤になってこちらを睨む彼女。
 本当に可愛いと思う。自分の物にしたくてたまらない。ちょっとした意地悪をしてしまう自分を止められない。
 そっと指先を噛む。






 思い浮かべるのは彼女への想い。愛しくてたまらない。そんな想い。こうしていれば言いようのない想いも彼女に伝わる。
(私の想い、伝わってますか?)
 ミミコは小さく頷いた。

作品名:クッキー 作家名:冬月藍