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【ヘタリア】イブリースとの夢

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 殺されると、カナダが呟いた。
「絶対に殺される、絶対だよ」
「大げさだねぃ」
「大げさじゃないよ」
 言い返して、ベッドの上でカナダは項垂れた。胸の前に何かあると落ち着くから、白クマのかわりに枕をぎゅうと抱きしめる。本当なんだと言うのに、トルコはちっとも信じていない。そのまま煙草で窓を煙らせて楽しそうに笑う。
 むっとしたので、枕に顎を乗せてそっぽを向いた。トルコは何か呟いてベッドに近づいてきた。大柄なトルコが登るとベッドが軋む。
「誰も気づきやしない、バレやしねぇよ」
「何で言い切れるんだよ」
「俺ぁアメリカの坊っちゃんとあんま面識ねぇからねぇ」
 手櫛で髪を梳かれる。やめてほしくて頭を振ると簡単に離れてくれた。
「フランスに知れちゃったら?」
「ま、言い訳はできねぇな」
「エジプトにもバレるよ」
「そいつは困らぁ……」
 少しトルコの顔が引き攣った。いい気味だ。
 カナダの恋人はアメリカだし、トルコの恋人はエジプトだ。だから完璧に浮気だ。しかも発端はどうあれ、一夜限りの夢のはずだったのだ。それが未だに、断続的に続いている。
 ため息をつくと、トルコがなんで拒絶しないのか、目で問いかけてきた。それは、ずるい。自分から言質を寄越さないで質問するなんて狡猾だ。
「……」
 黙って、横に倒れる。理由は言いたくない。流し目で時計を確認するとまだ五時だった。
 トルコは再び煙草を吸い出したが、今度は窓辺まで行かずにベッドにいる。その独特の香りが広がると、体中に残っているトルコの匂いと同じになっていた。このままでは本当に世界中に知られてしまうかもしれない。
 二人共黙ってしまって、しばらく経つ。言わなきゃダメなのかとトルコを上目遣いに見る。タイミングよく見下ろす目が眇られる。ずるいと思いながら首を傾げた。
「内緒にするかい?」
「さーて、どうしようかねぇ」
「じゃあ言わない」
 ふんと首を戻す。ずるい、ずるい、絶対言わない。
 枕に顔を半分埋めていると、今度は不貞腐れるなとのしかかられた。重いから押し返すと、くすぐるように額に唇を当てられる。トルコはひげを生やしているから、そうされると微かにひげが当たって、こそばゆいというよりチクチクして痛い。
 抵抗に顔を振ってみるけど、そうすると首やうなじにまでキスされる。痛いのにくすぐったくて、くすっと笑ってしまう。
「なんでぇ、言えよ」
「……トルコとするのは、気持ちいいんだよ」
 一瞬びっくりした顔をされ、目の近くにキスされる。照れたような仕草で、またくすくす笑いが出てきた。
「薬で、どろどろに溶けてるからだろ」
「かもね」
 はっきり言って、気持ちいいのはよく分からない。オーガスタは感じるが、そうなるまでの快楽は具体的じゃないものだからだ。
「アメリカは、意地で僕を抱いてたから。最後は気持ちいいよ。それまでは一方的で、乱暴で身勝手。痛みしかないのに、最後はよく分かんなくなってお終いなんだ」
 若さゆえ、とでもいうのか。意地の張り合いが終わってもアメリカはなかなかカナダを思いやったセックスが出来ない。それなりの快楽は感じているものの、いつも痛みや恐怖のほうがカナダの大部分を占めていた。だからこそ薬を使ったトルコとの関係は優しくて好きなのだ。
 おかしいねと、カナダが静かに笑う。トルコは逆にけらけらと大声で笑った。
 そのまま鷲掴みにするようにカナダの頭に手を置くと、そのまま乱暴に揺すった。撫でているのかもしれないが、挙動が大雑把だから髪の毛がぼさぼさになってしまう。
「俺だって、お前を好いててやってるわけじゃねーぞ」
「でもトルコは優しいよ。自分がやりたいからって急がないし」
 だから僕は好きなのだ。トルコはただ優しいままでいる。
 ひょいと抱きかかえられて、近づいたところで乱れた髪を直された。いきなり引き上げられて、かすかに目の前が点滅した。
「依存してんな、まだ」
「うん」
「愛されたいのかい、お前さんは」
「……うん」
「ハッ!」
 背中からベッドに下ろされる。覆い被さったトルコは目に掛かった前髪を指で寄せてくれた。面倒くさいとと言われた。
「手酷く扱われれば、勘違いしないで済むのかぃ?」
 覗き込んだトルコが言う。トルコは紅い目を光に晒せないから、仮面もサングラスもないことがすでに珍しい。
 その顔を見ながら、意外にゆるやかな表情で笑うのだと知って驚いた。優しい表情だ。勘違いしても構わない。勘違いなんてしないけど。
「そうだね……。そうしたら、きっと欲しがらない」
「よくわかった」
 今日は乱暴にしてやろう。首にキスをしながら呟かれる。けど、頬を撫でる手は優しい。きっとトルコは今日も乱暴にしないのだろう。




イブリース:イスラームの悪魔。