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おかえり。

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 アメストリスのブラットレイ統治軍国家が崩壊してから早何年過ぎただろうか。
 民主的な体制への移行も徐々に浸透してきたがまだ軍事政権の名残はぬぐい切れず日々奮闘するばかりの日々。
 彼は無事でいるのだろうか。


 あの日、手をつないで嫌がっても放さなければよかったと後悔を何度しただろう。
 君と約束した扉を壊すことも踏ん切りがつかぬまま。
 いつか扉を開けて君達が戻ってくることを願って。



 「中将、避難勧告は済んでますが、現地への人員をいかがいたしますか?」
 「そうだな、もし先例のように犠牲者が増えても困る貴重な人材だ。少々強引だが戒厳令を敷け。」
 「yes,sir!」
 またあのような得体のしれないものが湧いて出ても今の軍備力では太刀打ちできないかもしれない。
 手掛かりを残してくれたのに解読も依然として進まずじまいだ。

 
 現在のアメストリスにはない技術。
 ドラクマでも、アエルゴでもない。
 未知の力に興味と同時に空恐ろしさを感じる。
 君は一体どこにいるのか。



 その日は朝から左目が異様にうずいた。
 何かを予感していたのかもしれない。
 有感地震が昼過ぎて30回を超えた。
 地の底から競りあがってくるような何かを肌で感じる、この感覚は前に一度覚えのあるものだった。


 肩に背負う星の数も増えて日々忙しさにかまけていても、ふとしたときに思い出す鮮烈な存在。


 もしかして。
 そんな期待を何度目だろう。
 しかし今回はいつもの感傷とは違う魂を揺さぶる何かがあった。
 たとえばそれは空を割る雲の形だとか、地の底のマントルに吸い寄せられるような引力だとか。
 そんなたわいもないものだったりするのだが。



 今年でいくつになった?
 背は少しは伸びているのかい?
 まぶたに映る君を少し大人びて想像してみる。
 

 真っ赤なコートももう似合わなくなっているのだろうか。  
 瞬間にまみえた姿は立派な青年へと移り変わる途中のアンバランスさを備えていてどうしようもなく愛しさがこみ上げた。
 今頃は向こうの世界でかわいらしい娘を慈しんででもいるのかもしれない。
 君が幸せであればそれでいいのだけれど。



 書類にサインを施している途中、突如机が揺らぎ書類に大きなラインを引いてしまった。
 背後の窓ガラスは震え戦慄き、司令部内は戦々恐々とする。


 「フュリー震源はどこだ!」
 「まだ分かりませんが、おそらくはあの場所かと。」
 一瞬にして肌を駆ける戦慄は歓喜にも似た震え。
 最後まで聞くまでもなくいつにないフットワークの軽さで執務室を飛び出した。
 「中将!こっちです。」
 彼とかかわったことのある人物は皆一様に感じていたのか。
 車で現場に向かう先々で道路に亀裂が入り多少の困難はあったものの何とか目的に着いた。
 そこで見たものは。


 噴煙を上げて横たわる鉄の塊。
 「こりゃぁ、一体なんですかね。」
 ハボックのつぶやきも当然で。
 アメストリスでは見たこともないもの。
 前に降って沸いてきた異国のものと似ているようでもあった。
 空を鳥のように舞う鉄の塊。



 無線で回収作業の応援を呼びにいく部下を背に歩みを進める。
 「ちょ・・・、中将!無暗に近づかんといてください!」
 静止を無視して扉らしきものを錬金術で吹き飛ばすとまずはじめに目に飛び込んできたものは・・・・。

 
 瞳にも眩い金糸。
 少年が二人。


 ああ、やっぱり君だった。




 「こりゃ驚いた・・・・救護班も呼びますね。」
 部下の言葉などすでに耳に入ってこず、条件反射で頷いた。
 自覚なく震える腕を伸ばして幼さのまだ残る頬のラインに触れて顔をよく見た。
 口元に耳を近づけて息の有無を確かめ、いささかたくましくなった腕を取り、脈を確認する。
 「・・・・・・鋼の。」
 かすれていただろうか。
 久しく呼んだことのない彼の銘を口にする。
 すると、まぶたがピクリと動きゆっくりと瞳をひらく。


 金色の宝石が輝きを増す。
 


 「あれ・・・・?オレ死んだんだよな・・・・なんでアンタがいんの?大佐。」
 感動の再開とは少々ずれた発言にため息をもらすのも仕方がないだろう。
 「さぁ?なんでかな。私が聞きたいな、鋼の。」
 期待と不安とが一気に吹き飛んで苦笑しか浮かび上がってこなかった。
 その最後の言葉に顕著に反応して飛び起きる。
 「い・・・いま、何て言った?」
 「私が、聞きたいと。」
 ああ、声が少し低くなったな。
 しばらく聞いてなかっただけかもしれないが。
 「違う、その後、俺の事呼んだよな。」
 「・・・・ああ、『鋼の』?」
 もう一度繰り返せば大き目の瞳を零れ落ちそうなくらいに見開き、感情を振り払うかのようにかぶりを振る。
 それからうつむいて。
 「俺・・・帰ってきたんだ?・・・・ほんとにここへ帰ってきた?」
 搾り出すような声は戸惑いと嬉しさに葛藤しているようだ。
 欲目でなければ。


 彼の目の前に手を差し出して。



 「言いたいことは山とあるが・・・今は無事君の顔を見れたことを素直に喜ぼう。お帰り、鋼の錬金術師。そしてアルフォンス。」
 「大佐・・・。」



 「君がもたもたしてる間に中将にまでなってしまったよ。」
 


 以前夕暮れで振り払われた手は今度こそ重なり、お互いのぬくもりを共有した。


作品名:おかえり。 作家名:藤重