光、闇、光
何を見ているのか。何も見ていないのか。全てが黒に塗りつぶされていた。
「は、なせよっ…!!」
しくじった。
捕まった。
逃げなくちゃならないのに、単細胞馬鹿の力に俺の力が適う訳はない。
ナイフは遥か彼方に投げ捨てられて、もう一つも残っていない。
「放す訳無えだろ。」
淡々と答える単細胞馬鹿…もといシズちゃんに腹が立つ。
池袋の路地裏。
両手首を頭の上で一括りにされ、脚は心なしか地についてない気がする。
要するに、宙ぶらりん、の状態。
「っ何がしたい訳…?」
何をする訳でもなく俺の方を見るシズちゃん。
痺れを切らして問うと「別に」…本当に馬鹿だなこいつは。
「次の仕事…があるんだけど、」
「そうかよ」
「…用が無いなら放してくれる?」
「放したら手前また池袋に来るじゃねえか」
「仕事なんだから仕方ないじゃない、別にシズちゃんに会いに来てる訳じゃないんだから。自意識過剰もいい加減にしてよ。勘違いも甚だしいね。それに、そんなに会いたくないんだったらシズちゃんが池袋から出ていけばいいじゃない。」
「…五月蠅ぇ…黙ってろノミ蟲」
「相も変わらずボキャブラリーが貧相だね?」
「黙れ殺すぞ死ねノミ蟲」
「殺せば?」
その言葉にシズちゃんが息をのんだ。
「殺せばいいじゃない。君はいつだってそうだ。殺す、死ねと言って結局いつも俺を殺さない。口だけなんだよ、いつもいつもいつもいつもいつも!!殺せよ、そんな言葉、いらないから…殺せばいいじゃないかっ…!!!」
「ノミ蟲…手前…何泣いてんだよ」
誰が、と言おうとして気がつく。
頬が、濡れている。
「っ…るさい…君の所為、なんだからなっ」
「そうかよ」
「シズ、ちゃ…はいつもそうだ、俺をっ…ふ…否定する言葉ばかり吐くんだ…そんなだったら、死んだ方がまし…なんだよ、っぅ…俺は、君に否定されるのが…こ、わいんだ…」
涙が止まらない。
「悪い…」
そう呟いたシズちゃんは、俺にそっとキスをした。
真っ暗な闇の中、さした一筋の光はとても弱いものだったけど何も見えなかった
俺を導くには十分だった。