caramellato
ふんわりでもにこりでも良いけれど、言葉に置き換えるならば、ふにゃり・これが一番相応しいと思う
caramellato
名前を呼ぶだけで静雄はふにゃりととろけたキャラメルの如く笑うのだから、正直参ってしまう
そんなに嬉しいもんかね・と、心の先で思いながら満更でもない自分に気付いて苦笑
静雄は池袋最強だとか、自動喧嘩人形、果ては化け物だなんだと言われるけれど本当はこんなとろけるようなあまい顔で笑うのだ
あんな質の悪い渾名で呼ぶような奴は、きっと静雄の笑みを見たことがないんだろうなぁ
一度でも見たことがあれば、化け物だなんて思えるわけがないのに
と、そこまで考えてトムはちょっと機嫌の降下を自覚した
そこらの奴に愛想を振り撒く静雄を想像しただけで、ギリギリと臓腑が軋むような気分になったのである
自分の異質を自覚し、嫌悪を抱き、他人と距離を置かねばならないことを悲しんでいる
そんな静雄が、他人に理解され、多くの人に愛される
それはきっと喜ばしいことなのにどうしてだろう
そんな静雄を想像すると堪らない気持ちになる
腹の底、横隔膜のあたり
そこにぬたりとしたタールような膜がたまっていくような
そんな、醜い感情が溜まっていく
「トムさん?」
「………」
「トムさん?」
「お、おお」
下落の一途を辿りだしたトムの機嫌を引き戻したのは静雄の呼ぶ声だった
「どうかしたんすか?」
「や、なんでもねぇべ」
「なら、良いんすけど」
「おーていうか治ったわ」
「?」
「なんか、おまえの気持ちわかったかも」
「??」
「いやぁ、静雄はかわいいなぁ」
「は!?」
目を丸くする静雄にトムが笑う
静雄は耳まで赤くして、「変なトムさん」とつられたようにふにゃりと顔を綻ばせた
ああ、かわいい
ふにゃふにゃに笑うのもかわいい
名前を呼んで後ろから着いてくるのも本当にかわいい
田中トム25歳
今日も、ふにゃり・とろけたキャラメルみたいなあまい笑みと名を呼ぶ声に癒されている
end
作品名:caramellato 作家名:Shina(科水でした)