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おれがゆくときおまえはわらうだろうな

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夜だからいいのだと、笑った顔が気持ち悪かった。

 一人でやって来るのは初めてではないが、大抵は仕事の事後報告や依頼であるから、とがった気配でやってくる。それが今日に限って、ひそりとした気配で入ってきやがったので、そこから気に入らなかった。
「おまえに伝えてもしょうがないんだけどさ」なら伝えなければいいのに。
 いつもの頼りない顔で相手はべらべらとしゃべり始めた。
 この膨らんだ組織をかなり昔から支えてきた男の話だった。
「めずらしいだろ?引退したあとは普通のおじいちゃんみたいにさ―」誰も自分を知らないのだと、自慢するように公園で辺りを見回していた。
「彼、娘さんをあのとき亡くしたから・・」今はないファミリーとのいざこざを語られる。おまえも知ってるだろうといわれ、「しらねえ」と一蹴する。本当に知らないのだ。相手はむっとしたような、傷ついたような顔をする。
「それでも、ここを去らなかった」最後まで力になってくれたんだよという顔は、はじめにみたぼんやりとした顔に戻っていた。
「で?そいつが死んだからどうしたって?」おれに何の関係がある?といつものように口にせず漂わせる。
「・・いや。ただ、あんなにどっぷりここに浸かった彼が、老衰でなくなったって、伝えたかっただけだよ。」いいね、おれもみならいたいね。と急に仕事の顔と声で言った。
「とっておきの酒、だせ」珍しい。むこうにもどらねえのかときくと、もう、夜だからいいのだと笑った。それが気持ち悪いほど似あわねえ顔だったので、とっておきを取りに行った。