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子供みたいな人

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夏休みに入った午前中。
俺はファミレスのテーブルに金太郎と向かい合って座っていた。

「あー、外でテニスしたいわー」
「…………」
「こんなええ天気やのに、部屋の中に閉じこもるなんて不健康や」
「…………」
「なぁー、武蔵ぃー」

ダラダラと文句の絶えない金太郎に俺はとうとう読んでいた本を溜息をつくと共に閉じた。それが嬉しかったのか金太郎はパァっと幼い子供のような笑い方をする。

「もう勉強やめる! だから、外行ってテニスしよ!」
「ダメだって。今日までにこの数学のテキストを2ページ進めるって白石と約束したんだろう?」

ノートを見るとまだ半ページも進んでない。もうかれこれ1時間以上はやってるのに、半ページ……。思わず頭を抱えたくなる。
そんな俺にお構いなく、金太郎はビックリした様子で机の上に体を乗り出して俺に迫ってくる。こら、そんなに机を叩いたら大きな音が出て周りに迷惑だろうが。

「なんで武蔵が知っとるん!?」
「金色伝いに、あまりにもお前が宿題をやらないから白石と約束させられたって聞いたんだよ」
「小春のメアド知ってたん?」
「この前な」

初めてダブルスの対戦をしたときは引くに引きまくってしまったが、あちらの怒涛のペースに押されながら話をしてみると、意外にも話しやすいやつだった。しかも、俺の声真似がかなり上手い。正直、そのことで妙に親近感を覚えたのかもしれない。

「……武蔵ィ。それ、ユウジには絶対言ったらアカンで」
「あー、…………うん」

『俺の小春に何手ぇ、出しとんねん!』と拳を振り回しながら襲い掛かってくる一氏を想像して、俺は素直に頷いた。金太郎もいつになく真剣な表情だ。

「せやけど、武蔵いつの間にそんな小春と仲良くなってんのん?」
「金色だけじゃなくて、千歳とかとも連絡は取ってるぜ? この前はたまたま白石と忍足の2人に会ったから一緒にファミレス行ったし」
「そんなん聞いてへん! いつ??」
「えっと……5日前、かな」

その時にずっと気になっていた白石の包帯の件を聞いて、思わず深く感心してしまったことを覚えている。この自由奔放でバイタリティの塊みたいな金太郎を制するには多少の罪悪感はあるが、強引な技を活用するしかないと共感しあった。

「ワイ、教えてもらってない」

仲間外れにしてしまったことを怒っているのか、口を尖らせて拗ねてしまった金太郎に今更ながらシマッタと思った。
駄々をこねる金太郎はとにかく面倒くさい。あれ食べたい、これ買って、くれないなら許してあげないとばかりに俺の金を貪っていく。
財布の中に入っていた金の額を頭の中で思い浮かべてつい溜息をついてしまった。すると、金太郎の情けなく不安定な顔にぶつかった。
いつもの拗ねた顔とは少し違う。怒っているのではなく、落ち込んでいるような顔だ。

「金太郎?」
「……武蔵はワイとおるより、白石たちとおるほうがええ?」
「は?」
「ワイ、いつも怒られるんねん。そないなてんご言うたらあかんって。てんごばっか言うたら嫌われるでって」
「…………」
「せやから、ワイがてんごばっかやから……」

涙は出ていないが今にも泣きそうという雰囲気の金太郎に、俺は意地悪かもしれないが微笑ましい気持ちになった。
いつも元気で我侭で、子供みたいな金太郎はこれから年を重ねるうちに大人になってしまうんだろうか。2年後、今の自分と同じ3年生の金太郎を想像しようとしたけれど、うまく想像できない。というより、むしろこのままでいて欲しいから想像したくないのかもしれない。

「俺は金太郎と一緒にいるときが一番楽しいよ」

俺は手を伸ばして金太郎のピョンピョンと飛び跳ねている髪を整えてやる。

「ホンマ?」
「ほんま」

しっかりと肯定してあげれば、落ち込んだ顔が一転してキラキラとした金太郎らしい表情が戻って来る。本当に小さい弟が出来たようで微笑ましい。俺はテーブルの上にあるテキストを指差し、スライドさせた。

「こっからここまで。それが出来たら休憩にデザートでも奢ってやるよ」
「何個でも!?」
「なわけないだろうが。1つだけ」
「けち!」

白石には、甘やかして……と眉を寄せられるかもしれないと思ったが、甘やかしたくなってしまったのだから仕方がない。
イーっと歯を見せて不貞腐れるポーズを取るが、すぐにエヘエヘと金太郎は笑った。その後、一旦火のついた集中力は凄まじく、金太郎は休憩なしでそのまま今日の分の2ページを終了。その分何故か俺は店の中で一番高いデザートを奢らされてしまった。
……少しだけ後悔したのは、言うまでもない。


END
作品名:子供みたいな人 作家名:ACT9