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日本からの来訪者

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「……なんで、ここにいるんだ?」
「全国大会が終わったらアンタのとこ行くかもって言ったじゃん」
「え、いや、そうだけど……」

俺は目の前にいるリョーマの姿をまるで幻を見るかのような目で見つめた。会話を交わしてもやっぱり実感がなくて、手を伸ばす。

「何したいの、アンタ」

ぺたぺたぺた、とリョーマの頭や顔、肩や手を両手で押さえるように触っていく。リョーマは不機嫌そうな言い方をするけれど、顔はそこまで嫌がってないからポーズだと思う。
うん、この感じ、こいつは確かに越前リョーマだ。

「うわ、本当にリョーマだよ」
「オレじゃなかったら、なんなわけ?」
「うーん、なんだろ……双子の兄弟とか?」
「いないから」

リョーマは俺の腕を一回引っ張ると、近くにあるベンチへと向った。俺はその後姿を追いかける。小柄な体には大きすぎるようにも見えるテニスバッグを背負い、頭にはFILAの白いキャップ、その姿は3週間前の自分が日本にいたときとなんら変わりがないように思う。
そうか、まだ3週間しか経っていないのか。慣れない異国の地で慌しく過ごしているので、いま1つ時間間隔がおかしい

「どうして俺がここにいるのがわかったんだ?」
「武蔵さんの家に電話したら教えてくれた」
「あ、そうか。お前、もともとこっちの土地勘あるんだもんな」

今家には妹がいるから、あいつが詳しく説明したんだろう。そういえば、大会に出ているときはまったく知らなかったが、俺が生まれて初めて出たあの大会には妹の梓真も出場していたらしい。しかもリョーマとも面識があったというのだからビックリだ。

「……でもさ、安心した」
「ん? 何がだ?」
「アンタがテニスやってたこと。メールでは聞いてたけど、やってるところ見たら……なんかすごくホっとした」
「当たり前だろ? まだ3週間しか経ってないんだぞ。まぁ、うちの学校はあんまりテニスに力を入れてないから、もっぱらストリートテニスだけどな」

俺はつくづく部活、というものに縁がないらしい。とは言っても、こちらのストリートテニスはレベルが高く、かなり充実した生活を送っていると思う。

「レベルの高い学校なんていくらでもあるのに」
「学校選びは後々日本に戻ることを優先的に考えて選んだんだよ。最低でも大学は日本の大学を選びたいし」
「ふぅん」

気のない返事を返すリョーマの頭を軽く叩く。すると、ムっとした顔でこっちを見る。

「何するの?」
「心ここにあらずだな、って思って」
「…………」
「そろそろアメリカに来た理由教えてくれてもいいんじゃないか?」

全国大会が終わったら、前にリョーマは俺にそう言った。残念ながらこっちの生活に忙しかった俺は全国大会がいつ行われていたのかをチェックしていなかった。しかし、ここにリョーマがいるということは、全国大会は無事終了したんだろう。
結果が芳しくなかったのだろうか? だから、アメリカへと逃げ出した?
まさか、リョーマはそういうタイプじゃないだろう。

「全国大会は……」
「勝ったよ」
「え?」
「優勝した」

目を見開いてリョーマを見ると、いつものなんでもないような顔をしている。けれど、その目は何かをやりとげた後の強い目で、俺は一気に肩の力が抜けた。

「……良かった」
「なんで武蔵さんがそんなに緊張してるの?」
「な、だって、お前が急に来るから……」
「負けたんじゃないかって?」
「う、ごめん」
「別にいいけど」

けれど、勝ったのだったらなんでこんなにつまらなそうな顔なんだろう。俺と一緒に出たダブルス大会では優勝したときは大はしゃぎ、とは言わないがそれでも嬉しそうな顔をしていたのに。俺の困惑が見て取れたのか、リョーマも困ったような顔をした。

「……なんかさ、終わった後は嬉しくて、ほっとして、終わったんだって思った。そしたら、無性にアンタに会いたくなったんだ」
「俺に?」
「武蔵さんに。飛行機取るまでちょっと時間かかったけど、ガマンできなかった」

俺が何も言えずに黙っていると、リョーマはさらに困ったような顔になる。
何か言わなくちゃ可哀想だとわかっているのだけど、リョーマにとって自分がそこまで大きな存在だったのかと思うとうまく言葉が紡げない。だって、ここはアメリカなんだ。俺に会いたいからって無計画にこられるような場所じゃない。それなのに、こいつはほとんど衝動的にここまで来てしまった。

「お前って……」
「迷惑だった?」

俺は頭を横にふった。

「普段はそっけないのに、時々すごく情熱派だよな」
「はぁ!?」
「ちょっとお兄ちゃん照れちゃいました」
「……帰る」

ふざけたのが悪かったのか、リョーマはベンチから立ち上がってしまった。俺は慌てて、リョーマの手を取る。

「待てって。別に急いでるわけじゃないんだろ? だったら、1回試合してから帰ろうぜ。俺、リョーマと一緒に試合がしたい」
「……どうしても?」
「どうしても」
「しかたがないね」

前と変わらない生意気な言い草に思わず笑ってしまう。それを敏感に感じ取ったリョーマがまた不貞腐れないうちにさっさとコートへと移動する。どうせならやっぱりダブルスを組みたいから誰か相手を探さなくては。

「あ、そうだ」
「?」

あることを言い忘れていた俺は、小走りで後ろを歩いていたリョーマのもとへ近づく。

「全国大会優勝おめでとう! きっと一所懸命に頑張ったんだろうな、さすがリョーマだ」

俺よりも小さい位置にある頭を数回撫でて、俺は怒られないようすぐに試合相手を探しに向う。今日は楽しい試合ができそうだとワクワクした。





武蔵が走って行ったあと、リョーマは一人呟いた。先ほど武蔵に撫でられた感触はまだ頭の上に残っている。

「俺、たぶん、アンタに誉めて欲しくてここまで来たんだ」

今わかった自分の気持ち。こんなこと絶対に本人には言えない。
悔しくて、恥ずかしくて、でも嬉しい。なんとなく武蔵に負けたような気がするから、この気持ちはテニスにぶつけて発散させよう。

リョーマはもう見えなくなってしまった武蔵のもとへと歩き出した。


END
作品名:日本からの来訪者 作家名:ACT9