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さざ波も荒れるほどにこゝろも (文仙/落乱腐女子向け)

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「寂しい」と仙蔵は絶対に口に出していわない。
仙蔵は自分の好んだ相手でも一定の距離を置き、あまり人を寄せ付けないくせに、その実、誰よりも独りを嫌った。独りを嫌うから何かと理由をつけて自分に構う。
最初の頃は何故こんなに自分が構われるのかわからずにただ疑問に思っていたのだが、いつからかこいつは寂しいと素直に言えないのだと気付いた。気付いてからは何故か仙蔵の少しばかり不器用なその甘え方が愛らしくさえ思え、好きにすればいいとしたいようにさせている。
きっとそれを仙蔵も気付いているだろう。
元々、仙蔵にあれこれとちょっかいを出されるのは不思議と嫌ではなかった。煩わしいと感じないわけではないが、不快なわけではないのだ。
仙蔵は決して自分を不快にさせる一定のラインを超えるような真似はしない。自分と違って人との距離のとり方が上手いのだろうと文次郎は思っている。踏み込まず、踏み込ませず。だからいつまでたっても一人きりだということに、本人は気付いているのかいないのか。

ぺたりと無言で仙蔵が背に張り付いている。
とくりとくりと一定の間隔で刻まれる鼓動と少し低めの体温が静かに仙蔵の存在を主張して、ゆるゆると文次郎の感情を波立たせた。
文次郎は自室の文机の前に陣取り、結局委員会の時間内に終えられなかった細々とした委員会の仕事と向かい合っている。
仙蔵は背に張り付いてくるだけで、自分に構えとは決して口にしない。別段構って欲しいわけではなく、ただ人恋しくなっただけだろう。
もし何か火急の用事でもあるならば、仙蔵は文次郎が委員の仕事をしてようと課題と睨みあっていようとわずかばかりの空いた時間で借りてきた本を読んでいようと容赦なく用事を申し付けるのだから、本当にただこうして居たいだけなのだと文次郎は知っている。
寂しいと一言、たったその一言を仙蔵は決して口にしない。
口にしない代わりに全身で寂しい寂しいと涙もなく言葉もなく甘え主張してくるから、結局何時だって文次郎は仙蔵の無言の主張に負けて、それまでの作業を中断せざるえなくなるのだ。
無言で甘えてくる不器用な同室者を背から一度引き剥がして、下から俯いた顔を覗き見る。そこには常の凛として自信に満ち溢れた表情はなく、母親に置いていかれた迷子の子供のような頼りなげな表情があった。
もんじろう、と小さく仙蔵が文次郎の名を呼んで首に腕を回す。
全身で甘えるように預けられたその身体は細く頼りなく、しなやかな背に回した腕に少し力を加えれば簡単に折れてしまいそうな気がした。