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強がり、涙、そしてさよなら

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もう、決めたことなんです、と言って日本は寂しそうに笑った。その瞳に涙はなく、泣いた跡も見えなかった。ただ黒の髪を風に靡かせて、こちらを見て微笑むだけだった。

「本当に、それで…」
「言わせるんですか?あなたが、それを?」

 睨まれた。怯むことはしなかったが、背筋に冷たいものが走ったようにイギリスは感じた。「本当にそれで良いのか」と聞いて、答えがどうであったとしても、辛い事に変わりはないのだ。それをこの唇から紡がせようとするのは、酷な事だろう。思い直す。

「日本、俺は…」
「分かっています。あなたが悪いのではないと。誰も悪くなんかない。いいえ、悪いのは私です。私が悪いんですよ。悪は、私だけで良いんです」

 イギリスの言葉を乱暴に遮って、声を荒げながら日本はイギリスに掴み掛かった。やはり涙は流さずに。そして手を離し、背を向ける。決意を決めるような間があり、再び唇が開かれた。イギリスに聞こえてきた言の葉は、寂しさ、だった。

「さよならです。出来ることなら…」

 もう、お会いしたくありません。

「日本!!」

 会いたくないというのは、敵になった自分を見たくないからだろうという事は分かっていた。それが分からない程、浅い付き合いだったとは思わない、思えない、思いたくない。だからこそ簡単に「さよなら」と一言で別れられる訳がない。涙の別れをしたい訳ではない。そもそも別れたくなどない。イギリスは背を向けた日本に手を伸ばし、その体を抱き締めた。

「……幻滅しました。あなたはもっと男らしい方だと思っていました。離していただけませんか?あなた方を倒す準備がありますので」
「この馬鹿!」

 そんな震える声で、何を言っているんだ。泣くことも出来ず、その力を虚勢にかえて、一体何がしたいんだ。この小さな体に、何を背負い込むつもりなんだ。

「離して下さい、イギリスさん!」
「じゃあ泣けよ、泣いたら離してやる」
「な…何ですか、それは…。どうして、敵であるあなたに涙、など…」
「泣けよ。見てないから。誰も、見てないから…」

 きっと、誰の前でも涙を見せていないのであろう。一人で泣くと切なさが増すようで、泣けていないのだろう。同盟破棄が決まったあの日以来、涙など忘れていたのかもしれない。そう考えていると、泣きたいのはこちらだ。自然、日本を抱く腕に力を込める。

「離して欲しいんだろ、だったら泣けば良いだろ!」
「全く…あなたが泣いてどうするんですか。心配です。私と離れて、あなたがやっていけるのかどうか」

 雨のように不意に、日本の瞳から雫が零れた。静かに、静かに、その雨は、しばらく止むことがなかった。離れたくないのだと、涙が語っていた。