途中経過を聞きに
オランダさん方言崩壊注意
鎖国中にこっそり来ちゃったとかそんなん
「来んなわ」
向けられた剣にスペインは肩を竦めた。
自分に向けられた切っ先には悪意も殺意も無いのだから嫌になる。
肩の横で両手を上に向ける仕草は、自分よりもむしろ悪友の金髪の男に似合う気がした。らしくないことをしてしまうくらい、今はどうしようもないのだと思い知る。
乾いた風が吹いた。二人の男の間を早足で駆け抜けていった。
「それを言えるのは日本だけやろ?何でお前に言われないとあかんの」
「仕方ないやろ」
スペインは喉元にせり上がった失笑に寸でで蓋をして留めた。顔が奇妙に歪んだ自覚はあったのだが、オランダはそれに気付かなかったらしい。
自分より遥かに一義なこの男は、かつての兄貴分に宣戦していることに未だ惑っているようだった。そこは幼いながらにイタリアの南半分とは違うところだろう。表情にも動きにも見せない戸惑いや迷いが、彼の言葉の中には溢れている。
難儀やね。何がや。かつての支配国と属国はそう言葉を交わし、スペインが先に、少し遅れてオランダがその屋敷を見つめた。オランダの背に守られるようにして聳える彼の屋敷は木造で、腕を振るったらひとたまりもなさそうであるのに意外と頑強である。きっと彼の性質に因るのだろう。
は、と息を吐き出して土埃の地面を足で撫ぜると、スペインは背に負った持ち手の長い斧を構えた。オランダの表情に変化はない。ただ短い言葉が発せられた。
「無駄やぞ」
「そうかもしれんけど、俺はやらなきゃいけないんや」
困ったように笑うスペインは、部屋に籠っているであろう子供の姿の老いた国家を思い浮かべて緑色の目をゆっくり閉じた。
「日本がそれを望んでいてもいなくても」
「そうやって…好き勝手やるから嫌われるんやで」
「そうかもなー」
オランダは初めて眉間に皺を寄せた。わかっているならこれほど馬鹿なことはないと彼は思った。
同時に、目の前の男の本気の度合いを見せつけられているみたいで辛かった。
スペインは何の感情も乗らない斧の先をオランダに突き付けて、尋ねた。日本は今でも元気か?
オランダは太陽の眩しさに苛立ちを覚えたときのように目を細めた。あぁ。相変わらず変わり者や、と。