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体にまとわりついて離れないヒロトの首根っこをつまんで持ち上げると、小さな彼は怒ったような声を出して短い手足をバタつかせました。
「こら、踏んづけちゃうだろ!」
守はヒロトを手に乗せて小さな額を優しく指先で撫でて言いました。ヒロトは怒られているのもわかっていないのか、気持ちよさそうに丸い目を細めて守のてのひらをぺろりと舐めました。ヒロトとは、守が飼っている白い小さなロボロフスキーハムスターのことです。
「お前は人懐っこいなぁ。普通ハムスターってこんなに懐くのか?」
てのひらを顔の高さに持ち上げた守がヒロトをまじまじと見つめながら尋ねました。ヒロトはまるで返事をするかのように守の顔に小さな鼻先を近付けてくんくんとにおいを嗅ぎだしました。そして、ヒロトの小さな前脚がぴとっと唇の下についてちゅっ、とヒロトの唇、というよりも出っ張った鼻先と守の唇が触れ合いました。その瞬間、目の前が金色に光って守は慌てて片手で目を覆いました。
「うわあ!」
あまりの眩しさに思わず後ずさると、いつの間にかてのひらの小さな重みがなくなっていることに気付きました。眩しさをこらえて光を見ると、光の中に小さなハムスターのシルエットが見えます。
「ヒロトが…光ってる…!?」
ヒロトのシルエットは守の目の前でどんどんと大きくなり、彼と同じくらいの大きさになりました。
「え…?」
光は徐々に弱まり、その人間の姿がはっきりと見えるようになっきました。そこには、赤い髪に小さなハムスターの耳が生えた裸の少年が座っていたのです。
「まもるぅ~!」
少年が守にガバッと抱きつきます。
「ヒ、ヒロト…なのか?」
「そうだよ守!まもるぅ~!やっと話せた!!」
守の頬に頬摺りして喜んでいるこの少年があの小さな白いロボロフスキーハムスターのヒロトだなんて到底信じられませんが、目の前でハムスターが少年になったのです。信じないわけにはいかないでしょう。
「守、俺うれしいよ!守大好き!!」
大きくなったヒロトの白い身体を見つめながら守は重大なことに気付きました。彼は抱きついて離れない元ハムスターのヒロトをなんとか引き剥がして言いました。
「俺んち、ハムスターは飼えるけど人間は飼えないよ。母ちゃんに怒られる」
「そんなぁ…!守そんなこと言わないで!俺いい子にするよ!ちゃんと自分でひまわりの種割るからぁ…」
さっきまでとはうって変わってヒロトは悲しそうに鼻をすんすん鳴らしました。
「でも、こんな大きくなったら母ちゃんに見つかっちゃうだろ?母ちゃんびっくりするよ」
「大きいのがダメなの?俺小さくなれるよ!」
ヒロトは目を輝かせて守の鼻先まで顔を近付けて言いました。
「そうなのか?じゃあ大丈夫だな!」
「でも俺小さくなるの嫌だな…。守とお話できなくなるし…」
ヒロトは悲しそうに目を潤ませて守を見上げます。ヒロトの小さな耳も悲しそうに垂れてしまっています。その姿がハムスターの時のそれとよく似ていて、守は頭を優しくと撫でてあげたくなりました。
「大丈夫だよ。また大きくなればいいんだし」
「…またちゅうしてくれる?」
「ちゅうくらいいくらでもしてやるよ!おまえ、ちゅうしたら大きくなるのか?」
「うん!」
ヒロトは嬉しそうにうなずきました。それと同時に、ヒロトのおしりにぴょこんと生えた小さなしっぽもちょっとだけ動きました。
一人と一匹の不思議な出会いでした。
作品名:εε===~( C・> 作家名:犬川ム