船のうえで
真っ白な日差しに頭をやられたフランスが、熱中症で倒れてしまったからだった。なるべく揺れの少ないように、それでいて早く島へと着けるように、船は注意深くなめらかに進む。小さな船の小さな日陰に身体を寄せて、大きな白い帽子を扇代わりにあおぎながら、セーシェルはフランスの顔色をみている。気を失って数分。フランスの青い目が、厚いまぶたの下からのぞく。
「……セーちゃん」
かすれた声。
語尾が詰まって咳き込む。セーシェルは持ってきていた銀色のステンレスボトルから氷をがらがらと出し、なみなみと水をついで口元へ寄せてやる。フランスの厚い下唇が怠そうに動き、なんとか水をとり終えると、ぐったりと身体を横たわらせながらも、「大丈夫」と告げるかのように彼はひらひらと手を振った。力なく左右した指先は、フランスの目の上へと着地する。
「ごめんね」
「いいですよ」
太陽の光が波に複雑に反射して、ときおり、フランスの髪が金色にきらめく。フランスは眩しそうに顔をしかめ、冷えた汗の痕跡の残る髪のなかへ、指を通した。前髪から後ろ頭を通って、首元まで。そうして気付く。
「……あ、リボン」
「苦しそうだったからほどいちゃいましたよ」
「おれが先にほどきたかったのに。セーシェルのを」
沖で新鮮な魚をとって、おいしく料理してテーブルに並べて、ふたりで食べて、カードゲームでもして、そうしてそのあとやっと、セーシェルのリボンをおれがほどくつもりだったのに。
フランスは生気のない顔で笑う。この人は本当にどうしようもない救いようもないばかなんだ、とセーシェルは思う。
「夢のなかでしてくださいね」
と笑うと、フランスは細めた目をゆっくり閉じて、口元をゆるめて、穏やかに規則正しい寝息を立てた。波の音と、船のエンジン音と、ゆるやかに混ざって、セーシェルの耳まで届く。
島まではもうすぐだ。
セーシェルは考える。フランスの計画は最初でつまずいてしまったけれど、何も、取り返しがつかないわけじゃない。セーシェルの耳のうらで、赤いリボンが風にゆれる。島の港近くの市場の魚だって、すごく新鮮でおいしいのだ。