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妖精は魔法をかけた

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年齢逆転パロ。静雄が来神高生で、乙女です。



一目惚れってやつを信じるか?昔の俺はそんなもん胸のでかさや顔でしか相手を選ばない馬鹿野郎共がすることだと思っていた。だが、あの時俺はそうとしか呼べない体験をした。



妖精は魔法をかけた



都庁務めのしがない公務員である僕、竜ヶ峰帝人は貴重な休日を池袋散策に費やしていた。高校、大学時代の大半を過ごしたこの街は、良かったことも悪いかったことも思い出させる、大切なもうひとつの故郷だ。いつまで経っても垢抜けないと親友に会う度にからかわれるが、スーツを脱ぐと余計に年齢不詳になってしまうらしく、年齢的には少々とうのたった僕でも簡単に若者達の中にまぎれこめていた。少し複雑な気分だ。大切な友人達との出会いを運んでくれたこの場所で、僕はまた面白いことを探してふらふらと歩き回っていた。

少々歩き疲れ、どこかのカフェにでも入ろうかと考えていたところに、凄まじい轟音が鳴り響く。続いて響き渡る罵声と、それを煽るような演説じみた言葉。見なくてもわかる。平和島静雄と折原臨也だ。ところかまわず喧嘩を繰り広げ、人間業とは思えない被害を残してくれる彼らのおかげで、東京都の財政は圧迫されっぱなしだ。彼らが池袋に現れて一年以上。池袋の人々ももう正しい対処の仕方は知っている。すなわち、すぐさま背を向けてできるだけ遠い場所まで離れること。よって、帝人も正しい対処をした。しかし、彼らとの出会いはここでは終わらなかった。


平和島静雄だ。行きつけの喫茶店で新作ケーキを堪能した後、西口公園を散歩していたところ、思わぬ人物を見つけていしまった。怪我をしているようだ。大方、先程の喧嘩で折原臨也に刺されたのだろう。彼はナイフを使うと評判だ。自衛用だと言い訳しているらしいが、他人を刺すのはいただけない。少年課に言っておこう。だが、犯人は近くにはいないようだ。ならば更なる破壊活動が行われる可能性は低い。なんとなく気になって見守っていると、平和島静雄はベンチに座り、なにやら小袋から取り出している。接着剤かノリの類のようだ。何に使うんだろうと不思議に思っていると、おもむろに彼はだらだらと血を流している傷口へそれを塗りこもうとした。

「待って!」

何かを考える暇もなく、全速力で駆け寄り、そのチューブを取り上げる。ぽかんと間の抜けた顔で帝人を見上げる静雄は、何が起こったかよくわかっていないようだ。帝人だって実は冷静に理解できてはいない。ただ、彼は猛烈に怒っていた。

「何やってるの!接着剤は人の身体につけるものではありません!ましてや傷口につけるなんて!来神高校は何を教えているの!?」

きっと睨みつけて、ハンカチを取り出す。昨日洗濯したばかりだから清潔なはずだ。びりびりと破いて、包帯状にすると、傷口に巻きつける。その間も、静雄はまだ頭が回っていないらしく、呆気にとられた顔でおとなしく帝人の手を受け入れていた。

「止血だけしておくね。消毒しておかないと黴菌が入ってしまうから、後でちゃんとお家の人に手当てしてもらいなさい」

わかった?と顔を覗き込む。そこで、ようやく静雄は反応を返してきた。

「あ、え、と、はい。わかりました」

顔を赤く染めて、ぼそぼそと口の中で答える。そして、帝人もようやく自分が何をしているかに気づいた。池袋きっての問題児その1に自分から関わる日が来ようとは。しまったなとは思ったが、この出逢いを楽しんでもいた。平和島静雄は噂で聞いていたよりもずっと大人しい人物のようだし、繰り返される破壊活動も、その原因は挑発する折原臨也にあるのだろう。可愛らしい反応に気を良くした帝人は、結び目を丁寧にとめて、「できたよ」と笑いかけた。

「あ、ありがとうございます」

耳まで顔を赤くして、俯いてしまった。他人との関わりに慣れていないようだ。無理もない。暴れまわる静雄の姿は池袋では有名で、進んで近寄ってくる人間などほとんどいなかったのだろう。そう思うと、あまりにも可哀相だった。

「今日はもう家に帰った方がいい」

「え、ああ、そうっすね」

そう言いながらも、一向に立ち上がる様子がない。

「傷痛むの?病院の方がいいかな?」

「いえ、いい、です。帰ります」

「そう?」

「はい」

そして、ようやく静雄は顔を上げると、じっと帝人の目を見つめた。その視線の強さに、どきりとする。

「あの、名前と携番教えてもらえませんか?お礼、したいんで」

礼儀正しい子だなあと好感が増す。だが、高校生にお礼なんてさせるわけにはいかない。

「いいよ。気にしないで」

「いえ、ハンカチももらっちまったし、ちゃんとしとかないと親に怒られます」

今時とてもよい躾けを受けた子だなと、すっかり帝人は静雄を気に入った。

「わかった。僕は竜ヶ峰帝人っていいます。赤外線通信送っていい?」

「はい」

ごそごそとズボンのポケットから携帯を取り出し、番号を送りあう。情報の交換はすぐに終わり、パチンと携帯を閉じると、帝人は立ち上がった。

「りゅうがみね、さん」

「言いにくかったら帝人でいいよ」

また、かあっと更に顔を赤くして、「みかどさん」と大切そうに呼ばれる。そんなに大事に名前を呼ばれることなんてないので、なんだかくすぐったい。本当に人とのコミュニケーションが苦手なのだろう。これから少しずつ慣れていく手伝いをしてあげられるといいなと、微笑ましい気持ちで思う。

「俺も、静雄って呼んでください」

「うん、静雄くん。またね」

「!!ま、また連絡します!」

「待ってるよ。早く帰りなね」

帝人は手を振って歩き出した。そろそろ夕暮れが近づいてきている。買い物でもして帰ろう。このとき帝人は、非日常的な出逢いに浮かれていた。だから、これから待ち受けている未来など想像がつくはずもなく。熱に浮かされたような眼差しでいつまでも静雄が帝人の背中を見つめていることにも気づいていなかった。




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年齢逆転すると帝人くんの包容力と静雄さんの純情さが一気に上がって少女漫画になるなあ。
作品名:妖精は魔法をかけた 作家名:川野礼