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ある金曜日の昼下がり、26番道路にて。

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ポケモンは、兵器などではない。一生一緒のパートナーとなる存在なの。

 彼と出会ったのは、どこだったかしら。
 そう、26番道路。私が拠点としている場所だわ。
 何でここを拠点にしているかと言うと、ここを通るトレーナーは、ジョウト側からもカントー側からも、骨のある戦い方をできる人が通ることが多い。何故ならここはポケモンリーグへ続くチャンピオンロードや、波乗りを使ってジョウトへ行くことのできる海岸へ出ることも出来るから、それなりに修練を積んでいる使い手が多く通るの。少なくとも海を渡るために必要な技である波乗りを使うには、ジムバッジが4つ以上無いといけないわけで。

 わたしは温かいお茶を啜ると、ほっと一息吐いた。向かって右手には同じエリートトレーナーを名乗るナツホ、丁度正面には同じくシュンが同じように腰を下ろしている。2人ともわたしと同じように26番道路を拠点にレベル上げをしたり、トレーナーとバトルを楽しんでいる。2人ともたまにバトルして、その都度お互いのバトルの良かったところ悪かったところを言い合ったり、時に議論を交わしたりもする。そうして切磋琢磨することのできる、とてもいい仲間――それが、ナツホとシュンだ。
 そんなわたしたちが何でここで3人でいるかというと、特に大きな理由は無い。26番、27番道路を拠点としているわたしたちに、いつも親切にしてくださるご婦人がいる。今いるこの民家の持ち主なんだけど、よくポケモンやトレーナーを休憩させているの。それには、私や目の前の2人も含まれる。遠慮しないで、それが私の楽しみだからという言葉に甘えて、いつもつい立ち寄ってしまうのだ。そんなご婦人が、今日たまたま家を訪れたわたしに突然行かなければならないところができたから、と留守番をお願いしてきたというわけ。わたしは勿論二つ返事で了承したのだけど、そうしたらナツホとシュンがたまたま現れたのだ。2人ともわたしの淹れたお茶を飲んで、各々休憩している。

「最近、つまらないのよね」
「どうしたの、急に」
ナツホが言い出した言葉に、わたしは小首をかしげる。
「どいつここいつも威勢だけはいいくせに、戦い甲斐が無いのよ。もうちょっと、倒し甲斐のあるトレーナーと戦ってみたいわ」
「あ、それじゃあ僕と戦わない?僕も最近、退屈していたところなんだ」
話題に食いついたシュンに対して、ナツホはあからさまに眉を顰める。
「…わたしを満足させる戦いが、あなたにできるの?」
「言ったな。これでも最近地元のトレーナー相手にバトルを重ねて、一気にレベル上げたんだ。もう前のようにはいかないよ」
ナツホへの負けが続いているシュンは、どうやら戦う気満々のようで。しかしナツホは乗り気では無い表情でお茶を啜った。彼女の中で、シュンはお呼びではないようね。わたしは、ポケギアを取り出してナツホに示した。

「戦いたい相手がいるなら、ポケギアで連絡とってみればいいじゃない」
そう言うと、ナツホはあからさまに不機嫌な表情で黙ってしまった。え、わたし、何かまずいこと言った?シュンに視線をやっても、わからないと言うように肩を竦める。
 ナツホはわたしたちから視線を外し、お茶に向かって話すようにぽつりぽつりと言葉を口にした。
「…悔しいじゃない、呼び出すのなんて」
「え?どういうこと?」
「か、勘違いしないでよ、わたしは、待ってあげてるのよ!彼が、わたしと戦いたくなるまで………あ」
ナツホはそこまで捲くし立てると、しまったというような表情をした。顔を一気に赤くして、目の前で両手を振る。
「今のはなし、そう、わたしが怖くて戦いに来ないのよね。だったらこっちからわざわざ連絡してやる義理も無…」
「ナツホ、落ち着いて」
「ナツホが認める男か……あ、もしかして彼?ほらこの前、新しくチャンピオンになったっていう…いいな、僕も彼とはまた戦ってみたいんだよ」
私はどきりとした。ナツホの方を向くと、どうやら図星のようで「そ、そんなことないわ!彼なんか関係ないわよ!決して!」と、不自然なほど連呼している。参ったなあ、とわたしは頭を掻いた。だってわたしは、彼に毎週会っているから、何となく後ろめたい。ポケギアの番号は、ナツホとだって交換していると思うんだけど。今の話の流れだと、きっと彼がここを通ってから彼とバトルしているのはわたしだけだ。毎週というのも、彼がちょうどわたしの手の空いている時間を見計らって電話して来てくれるからなんだけど。
 確かに彼とのバトルは楽しいし、屈強な彼にわたしはまだ一度たりとも勝てたためしが無い。ああ、今日も電話くれるのかしら。

「彼、本当に強いんだよなあ。まだ若いのに、今度はカントーのジムバッジを集めるって話だよ」
「えっ、そ…そうなの、ふ、ふうん、まあわたしも知っていたけれど……!」
「どうしたら勝てるんだろう、せめて連絡してくれればいいのになあ、バトルしたいのに」
そうシュンが言ったところで、ポケギアが鳴った。来た!画面には、彼の名前が記されている。どうしよう、と一瞬迷ったけど、わたしは2人に断って、一旦外に出た。通話ボタンを押すと、暢気な声が聞こえる。ただでさえ若いトレーナーなのに電話越しでは尚更、彼の声は幼く聞こえる。
「…ねえ、また、わたしと勝負しない?今度は絶対、わたしが勝つから!」
了承の言葉が聞こえると、わたしは部屋の中に戻った。ナツホは未だに、シュンに向かって彼について語っている。わたしはほんの少しだけ、後ろめたくなった。それでも、約束は約束。彼に電話をくれたのは、わたし。ごめんね、ナツホ。
「…ごめん、わたし用事ができちゃった。2人に留守番、任せちゃっていいかな?」
「あ、バトル?いいなあ……いいよ、ここは僕が引き受けるから」
「だからね、わたしは別に彼にこだわってるわけじゃな…ああ、どうぞ、いってらっしゃい」
私は2人に一礼すると、ギャロップとデンリュウをつれて26番道路のいつもの場所まで、階段を駆け上がった。彼はきっと、すぐにやってくるだろう。「そらをとぶ」を使って。わたしは高揚感を押さえながら、階段を一気に上りきる。さあ、また、彼の戦い方を見せてもらえるんだ。そして、今日こそわたしが――


* *


「…やっぱり、ポケモンは、戦いの道具じゃないのよね」
彼と戦うと、それを実感する。ポケモン同士が切磋琢磨するためのバトル。彼との戦いには、それが感じられる。負けても不思議と悔しくならない。…うそ、とっても悔しいけど。不思議といつも、心は穏やかなのだ。
 わたしは戦いを終えて、彼に一つ訊いてみた。何故、同じ場所にいて同じエリートトレーナーであるナツホやシュンとはバトルしようと声を掛けないのか。
 彼の答えはわたしの予想を超えていた。それはチャンピオンとは思えないほど子供らしく単純で、わたしは思わず笑ってしまった。


「シュンさんもナツホさんも、朝電話かけないとバトルしてくれないでしょ。…僕、朝が苦手なんだ」





fin