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サガミ ムツキ
サガミ ムツキ
novelistID. 221
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ずっと、ずっと暗くて狭い箱の中で、なにかに耐えるように蹲っていた。
このまま、ここで過ごしていくのかもしれない……。
そんな風にどうしようもなくなっていたとき、あなたは手を差し伸べてくれたんです。
嬉しくて、VOCALOIDなのに言葉に出来なくて……。

「これから一緒に頑張ろうね」

戸惑う僕にあなたはそう笑ってくれた。

この日から、あなたは僕の『マスター』になって、
僕はあなたの『特別』になれた。

――――そう思っていた――――。



それから、マスターの好きな曲を覚えることになった。
僕自身の声質と離れていたから、マスターも僕も一生懸命だった。

「もっと他の曲にしたほうがいいのかなぁ……童謡とか?」
『マスター! 僕頑張れますよ!』
「でも、無理してたらよくないし……」
『VCALOIDは無理してこそです! それに……』
「それに?」
『僕もこの歌、好きですから』

一瞬あっけに取られた顔をした。その後すぐに僕の好きな笑顔になって
「じゃ、もう少し頑張ろうね」といってくれた。

大好きなマスターが好きな歌だから、僕も上手く歌えるようになりたい。


マスターと出会ってから、しばらくして二つのプログラムがインストールされた。
青いツインテールをした女の子と茶色のショートカットの女性。

「KAITO、ミクとMEIKOだよ。一人だと淋しいかなと思って、
ちょっと頑張っちゃった。仲良くしてあげてね」

二人ともよく知っている。僕の姉と妹だから。
調教を区切るとき、マスターはいつもパソコンをつけっぱなしにしてくれた。
最初のとき、シャットダウンを選択したマスターの前で相当な表情をしてしまったらしい。
でも、先日届いた明細書を見て難しい顔をしていた。
それから、しばらくしてメイさんとミクがきた。

「KAITO、よろしくねっ」
「お兄ちゃん、一緒に歌おうね」

ここで二人と再会できるなんて思ってなかった。
僕らは工場を出てしまえば、また巡りあえることはそうそうない。
この出来事もあったから、『特別』なんだという思いはいっそう強くなった。


――二人が来てから、僕がマスターに呼ばれることが少なくなった。
僕らの歌声は勝手に研ぎ澄まされるものじゃない。
それは十分わかっている。二人より、僕のほうが先にマスターと出会った。
だから、メイさんとミクの調教が必要なのもわかっている。
……でもマスター……、最近あなたの元に来る前のことを思い出すんです。


「あのね、お兄ちゃん、今日ね、マスターに喜んでもらえたの!」
「そう、よかったね。ミクは色んな歌が上手いからな」
「あら、少し音伸ばしすぎて注意されてるところもあったじゃない」
「もぉー、お姉ちゃんの意地悪っ。もう、コーラス入ってあげない!」
「あらあら……そんなこと言っても、困るのはマスターでしょう? ねえ、KAITO」
「…………」
「……お兄ちゃん?」
すぐに返事をしなかった僕をミクが心配そうに覗き込んでくる。
「KAITO、どうかしたの?」
「あ、ううん。ちょっとぼーっとしてて……」
「やだ、大丈夫?」
額に手を当てて熱を計ろうとするメイさんの手を掴んで、
「大丈夫だって」
そう苦笑いを浮かべて返す。
「そう?」
「具合が悪かったら、マスターに言ったほうがいいよ?」
「うん、そうするよ。ありがとう、メイさん、ミク」
でも、その場所はもうないじゃないか――。


どうしてなんだろう。
二人を見ていると胸のあたりがもやもやとしてくる。
楽しそうに歌う、メイさんとミク。
二人の歌を懸命に調節するマスター。

――どうして、あの場所に僕はいないんだ――。

『特別』なんかじゃなかったの?
あの時、優しく手を差し伸べてくれたのに『VOCALOID』として括られてしまうのか?

どうしたら、あなたはもう一度僕だけを歌わせてくれるんだろう?
どうしたら、あなたはもう一度僕だけを見てくれるんだろう?
どうしたら、あなたは僕だけの…………。



――――……ああ、そうか。
ぐるぐると廻るだけだった思考が、ひとつの答えを浮かび上がらせる。

他のVOCALIDがいるから、僕を見てくれないんだ。
それなら、みんな消してしまえばいい。
そうすれば、僕だけを……。