淡雪
まどろむような低い声が室内に響く。
私は読み本を置き、火鉢の世話にうつる。
奥州の冬は今年も一段と厳しい。
「美冬。物語はどのようにして思いつく」
政宗様はこの所、毎晩私の部屋に足を運ばれる。
こうして、私のつたない創作話に耳をかたむけては、真夜中までたわいもない話をする。
ろうそくの灯り越しに横たわる政宗様はとても妖艶に見えた。
「誰かを思えば……易いことです」
ぱちりと炭がはぜる。
夜は不思議だ。
昼間は到底言えないような言葉が訳なく口から滑り出てくる。
勿論、その度に心臓は音をたててはいるけども。
「ha……どんな奴だ。俺よりいい男か」
だけど、政宗様はそんな私とはまるで逆のよう。
蒼い龍の研ぎ澄まされた神経はまったく機能していない。
「今度そいつと会わせろ。美冬。俺が見定めてやる」
そう。私の気持ちなど、置き去りだ。
だから私はまた書く。
思い伝わることのない話を。