愛し愛しと泣く心
「寂しいね」
触れているのに、触れていない気がする。悲しいのに、それを口に出せない。千景は謎かけのように言葉を上げて、取り繕うようににこりと微笑んだ。帝人は瞬きをして、整った顔立ちの彼に真っすぐな視線を向ける。
「寂しい ですか?」
「うん。けど 当たり前だろう?」
隣にいるのに、どこよりも遠く見えてしまうかもしれないなんて。千景の言葉は哀れに響き、帝人の網膜を柔らかく刺激した。刺激された網膜がじわりと涙を浮かべかけると ぎゅう、千景は緩やかに帝人を抱きしめ、ぽすん、と帝人の肩に頭を置いた。帝人の指がそろそろと彼の髪に向かって伸ばされ、軽く彼の頭を撫でるまで千景の力が弱まることはない。それは彼のよわさだ。帝人は理解して、さらさらとした千景の髪を撫でる。
「ハニー 愛してるよ」
「・・・はあ」
だから なのに 寂しいんだ、千景の訴えは切実で、空虚である。帝人は数秒前まで確かにあったはずの涙が引っ込み、妙なほど乾く心地のする瞳をそっと擦り、千景の髪先から指を離した。
「どうして寂しくなるんでしょうか」
僕が、例えば、僕じゃなかったら、貴方が貴方でなかったら。帝人が零しかけた仮定の話に、千景は形のいい眉を潜めた。言葉で糾弾されたわけではない、しかし確かに自分の言葉が彼をかなしませてしまった、帝人の胸に浮かんだ後悔交じりの暗欝な感情は、まさしく落胆だった。その感傷をそのままにはしておけず、帝人は すっぽりと千景の腕に収まったまま、そっと体重を彼に預ける。
「どうしたら、寂しくなくなるんでしょう」
帝人が呟いた言葉へ、千景は歪に微笑んだ。どうしたらいいだろうね。千景の問いかけに、帝人の瞳はゆるゆると細くなる。
「僕も、貴方のことを」
言いかけた言葉を、千景は唇で閉じた。体温の押収に目を閉じた帝人へ、千景は無様に笑いながら うん と頷く。
「嬉しいよ ・・・すごく、うれしい」
(そういいながら、僕の言葉を最後まで聞かないのはどうしてですか)
帝人は思い、愛おしげに帝人の首筋にキスを落とした千景の熱を覚えながら じわりと滲みかける視界を不思議な面持ちで見据えた。
(僕は貴方のことを 愛して、 い る )
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同じ感情のはずだった。どうして不安が生まれてしまった
同じ目線でいられないことなんて 最初から知っているはずなのに
ろちみかの日と聞いて、先日捧げさせていただいたろちみかにちょこっと加筆しました。急ごしらえクオリティ否めない。