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馬鹿な話。

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「この前面白い物をみたんだ」という何気ない男の馬鹿話から、そうだ事は始まったのだ。
 端から見たらそうだろう、ほとほと呆れるばかりの馬鹿話である。どころか冷静な自身の優秀な頭脳を以てしても、これは馬鹿話だと処理すべき事象だということは分かり切っていることだというのに、けれども現在進行形でおこりつつあるこの反応はどういうことであろうか。
 と、目の前の光景から少しでも気を紛らわそうと思考をゆらめかせながら侘助は細く溜め息をついた。

「ハア、ほら……、大丈夫、かわいい」

 欲を滲ませた声を漏らしながら男は指先でつう、とそれ撫でている。その所作は紛れもなく、愛撫である。
 そう、対象がペットボトルでさえなければ。
 脱がせてもいい、と答える筈も無い無機物に話しかけながら爪を立てピイ、と裂いてゆくその様はけれども行為を彷彿とさせる。

「ねえ、もっとこっち向いて……」

 明らかに態となのだろう、彼の息が少しだけ上がっている。小さく囁く声が鼻にかかっているのもまた、演技なのだろうが、だけれども酷くリアルだ。侘助はおのれの腹の底がざわざわと騒ぐのを感じていた。

 侘助の取るべきだった正しい反応は、腹を抱え、背を逸らし、顔を歪めて笑えば良かったのだ。
 勿論、最初は二人してヒイヒイと笑っていた。彼の演技はそれこそリアルであったし、面白いと言った内容はあまりにも下らなかった。理一の言っていた動画の内容など見ずともそれだけで充分であるほどに肩を震わせ、侘助は親戚の子供達のように笑った。
 そのまま調子に乗って、続けたのが全ての原因だろう。
 実の所、侘助と理一の間には駄目な大人の見本とも言えるだろうだらしなくもいやらしい関係が転がっていた。つまるところ、この男が戯れにつるつると遊ぶこのペットボトルに施すやり方と似た様な手管で愛撫されし返す、そんな仲であると言えた。だからこそこんな下らない大人のジョーク、言ってしまえば下品な遣り取りを交わす事だって他愛のないコミュニケーションに他ならない筈だった。侘助は笑うだけで良かったのだ。
 けれども、この男のこんな声は聞いた事がないな、という事に気が付いた瞬間。腹の底から込み上げる笑いに歪められていた唇は別の意味で引き攣った。
 二人の間に甘い言葉が似合う訳もない。だからこそ、こんな優し気な男の言葉は聞いた事はない。もちろんそれがおのれに向けられているものである筈がない、が、けれども密室に於いて侘助の本能を興奮させるには充分だった。
こんな下らない事をしている男の隣で浅ましくも欲情していることがバレたなら、間違いなくおのれは指をさして笑われるだろう。しかも、侘助の一番嫌がるやり方を、無意識に選び取って。
 侘助はごくりと唾を呑んだ。それはそうっと、隣で未だはしゃぐ男には聞こえない様に飲み込んだつもりだった。
 けれども不幸にもこの部屋は狭く、二人の距離は近く、そして侘助の喉奥は思っていた以上の音を鳴らした。理一はその水音にぴくりと反応すると、ぐるりとこちらを向いた。

「えっ」

 耳に届いた声に、侘助は絶望的な気分になった。出来る事なら見ないフリをするか、もしくは笑って流してくれるか。そのどちらかを選択してくれればいいと切に願った。
 けれども理一はそんなデリカシーは持ち合わせていなかった。

「なんで勃ててんの」
「……うるせえ!見んな!」
「えっ、なんで」
 
 驚いた、と言わんばかりの表情だった。彼の気持ちが分からんでも無い。自分がもし彼の立場で、同じ事をされたら侘助とて引くだろう。けれども、それにしてもあからさまな彼の態度に傷つきながらも、侘助は赤い顔で、出てけよ!と言い募る。
 本当は期待していた。気持ちいい事は好きだ。そもそも、この男の部屋に訪れた理由など最初から決まっていて、理由はあまりにも情けない(上に、今後も長い事からかわれてしまうネタになってしまったのだろう)が、今はただ早くどうにかして欲しかった。
 けれども、理一はそんな侘助の思惑など知る訳も無く、うんじゃあ終わったら呼べよ、と言ってあっさりとその部屋を出て行ってしまった。残されたペットボトルに向かいながら、侘助は盛大な溜め息を吐く。



 まったく、とんでもない馬鹿話である。




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理一の喋り方分からんかった

作品名:馬鹿な話。 作家名:あねよ