蓋して開けたら更に燃えてたんだもんっ
「そうですね、僕もないです」
「・・・・・」
「?どうしたんですか?」
「・・・・・お前今、明確な意思を持って俺の話の邪魔したろ・・・?」
「はて?」
「はて?じゃねーよ!何その時代錯誤な感じ!てかとぼけんな!とぼけんなよこのヤロウ!」
「千景さん声おおきいっ」
気付かれる!という帝人の叱咤の声で、俺は慌てて自分の口を押さえた。まだまだこいつに言ってやりたいことは山ほどあるが、今はそうも言っていられない。なぜなら俺たちは今、大事な任務を遂行中だからだ。
「お店の中に入っちゃいましたね」
「んー・・・俺たちも入るしかねぇかな」
「え、でも入ったらバレません?」
「入らなかったら見逃しません?」
「・・・・・」
「・・・・・よし、特攻だ」
嫌がる帝人を引き連れてファーストフード店に入り、適当に飲み物だけ買ってそそくさと端の席に座った。観葉植物の隙間からそっと辺りを除き見て、すぐにターゲットを見つける。バーガー二つにシェイクにたばこ。喫煙席のカウンターに腰掛けた男の姿は(認めたくないが)めちゃくちゃ絵になっているのに、彼の周りには人っ子一人見当たらない。そう、平和島静雄の周りには今、女どころか生き物の影すら見えなかった。
「・・・・一人だな」
「だから言ったじゃないですか。静雄さんに付き合ってる女の人はいませんよ、多分」
「でもあの見た目で女にモテないってそれはそれで信じがたいだろうがよ」
「そうですね、めちゃくちゃかっこ良いですもんね」
「・・・帝人くんはどうしてそうフラグをばきばき折るのかな!」
「だって僕静雄さんが好きなんですもん」
しれっとした顔で帝人がシェイクを啜る。俺はなんとも言いようのない気持ちになって、頼んだブラックコーヒーを一気飲みした。
静雄が帝人を気に入ってるのは知ってる(何度か見かけた)し、帝人が静雄を好きなのも知ってる(何回も聞いた)けど、だからと言って静雄に女がいたらそんなのは全然、気にならない。はずだった。
けれど今日一日静雄に張り付いていても、静雄に女の影は見当たらなかった。幼女の影は見当たったが、あれは、いや、うん、違うだろう、多分。ていうかそうであって欲しい。まじで。俺だって結構静雄は気に入ってるのよ?強さだけですけども!
「静雄さんに彼女がいないなら、僕にもチャンスがあるかもしれないじゃないですか」
「いいやないね、絶対ないね」
「なんでですか」
「俺がそんなチャンスはぐちゃぐちゃのバキバキに潰してあげるからです」
「埼玉のヤンキーまじうざいわー」
「こらー!!!!!!!!!」
けっとでも言いたげな顔で帝人がテーブルの下で俺の脚を蹴る。俺はいてっ!と小さく反応しながらすぐ、シェイクを飲む帝人の手を取った。それから聞けよ、と真剣な声色で帝人を捕まえる。
わかってる、俺が悪いのだ。出遅れた俺が全部悪い。静雄が帝人を気に入る前に、帝人が静雄を好きになる前に、俺がちゃんと言っておけば良かったんだ。それは否定しない。否定はしない、けど。
「もし、もしな、」
「・・・・なんですか」
「静雄が帝人の気持ちに応えたとする、で、二人は付き合ったとする」
「・・・・はぁ、」
「でも俺は諦めずに池袋に通うし、お前に声かけるし、静雄に喧嘩も売るぞ」
「はぁ?なんでそんな意味もないこと、」
「意味なくねぇよ。お前は今まで何回俺がナンパするとこ見てんだよ?」
「・・・・・・しつこい男は嫌われますよ」
「略奪愛が好きなんだよ」
「埼玉のヤンキーまじ絶滅しないかな」
「だからおま、こらー!!!!!!!!!!」
そういうことは軽々しく言うもんじゃありません!と怒りながらでも、俺は見逃してやらなかった。照れたように伏せられた視線も、ほんのり赤くなった耳も。
俺はだって、略奪愛が好きなんだよ。更に言うなら脈のある略奪はめちゃくちゃ燃える。声をかける度律儀に俺についてくるお前に、千景さん、と柔らかく笑うお前に、脈を見出すなって言う方が無理な話だろ?なぁ?
「男をハニーにする気はないんじゃなかったんですか」
「静雄に女の影がないので俄然燃えたからもう気になんねぇ」
「(埼玉のヤンキーって皆こうなの・・・?)」
「こら、おま、今またひでーこと考えただろ?!帝人!!!!」
まぁでもたまにあったはずの脈をぷつりと切られたり、立てたはずのフラグを踏み倒されたりするけど、俺はめげません。だって何しろ、俺はあの、埼玉の、ヤンキーですから、ね!!!!!!!
作品名:蓋して開けたら更に燃えてたんだもんっ 作家名:キリカ