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ruddy -UK.ver-

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 クローゼットをあさっているアメリカが、ばっさばっさと選んだ服を放り投げてくる。
 落とさないようにと必死に受け取りながら、イギリスは小山の後ろから顔を出した。こいつはなにをしてるんだろう。
「お、おい、アメリカ?」
「出かけるんだからちゃんと着てかないと。だって外は雪が降ってるんだぞ」
「だからってこんなに出してどうするんだ、全部着るわけじゃないだろ。それにおまえ、もうそんなに着込んでるのに」
「これを着るのは俺じゃなくて君だよ」
「はっ? 俺?」
 クローゼットに飽きたらしいアメリカは次にチェストをあさり始めた。ごそごそ、ばさっ、ごそごそごそ。きれいにたたまれたシャツがしわくちゃになっていくのがちらりと見えて、怒るより先に呆れ果ててしまう。本当に周りが見えないやつだと。
 そのうちにチェストにも飽きたようだ。イギリスが抱えている小山を腰に手を当てて確認すると、よしっだなんて頷いて近寄ってくる。
 自分が持たせたくせに邪魔だとばかりに服をベッドにぽいと放り投げ、1枚1枚をイギリスの肩にあて、ああでもないこうでもないと悩むアメリカ。
 イギリスはじっとしているしかなかった。こうなったらなにを言っても無駄だと知っているからだ。
 マネキンよろしく固まり続け、アメリカが選んだアメリカの服を着せられる。「はい、ばんざーい」って、俺をいくつだと思ってるんだ。おまえよりめちゃくちゃ年上なんだぞばか。
 トパーズ色のカーディガンを羽織らされ、ターコイズ色のセーターをがぼっとかぶせられる。穴をくぐり抜けて顔を出す。
 すると、笑いながらアメリカは頭を撫でてきた。
「はは、静電気、ぱちぱち、髪がいつも以上に爆発してるぞ」
「おまえが乱暴に着せるからだろうがっ」
「じゃあハンバーガー食べた後に君を脱がすから、服の上手な着せ方ってのをついでに教えてくれないかい? ただし、イイコト終わってから」
 言われたことの意味を理解した途端、熱がぶわっと上がってくる。
「ふっふ、ふ、ざけんな!! ばか!!」
「はははは」
 自前のシャツとベスト、アメリカの薄手のカーディガン、そしてこちらもアメリカの厚手のセーター。……重ね着しすぎてきもちわるい。腕を動かしづらいし、体型もむくむくでメタボになったみたいだ。
 体のラインにぴたりと添った細身のファッションを好むイギリスとしては、こんなだぼだぼファッションは到底受け入れられない。
 それでも、色やらバランスやらを楽しそうに整えているアメリカを見ていると、もうなにも言えなくなるのだった。かわいいからつい許してしまう。
 しょうがねえなと余った袖を折り、とりあえず長さを合わせる。サイズはどうにもならないのが悔しい。これはセーターであってチュニックじゃないのに、丈が腿の半分まであるのはどういうことだくそうちくしょう大きくなりやがって。
「じゃ、次はコートだね」
「や、もう……」
「そうだ、俺のダッフル貸してあげるよ! 君に似合いそうなやつがあるんだ、持ってくる!」
「い、いい、俺は、」
 アメリカは聞こえないふりをして部屋を出ていった。戻ってきたときには明るいオレンジ色のダッフルコートを手にしてきらきら笑顔、イギリスは差し出されたそれに黙って袖を通した。……でかい。こんなにぶかぶかなのにこれを着ていけというのかおまえは、「そうだぞ!」、ああそう……。
(わかったよ、もう好きにしろ)
 唇を尖らせるイギリスに構わず、玄関口まで連れていったアメリカはまたもや自分のアイテムをイギリスに提供した。
 首どころか顔の下半分もマフラーでくるんでしまい、耳つきのニット帽をずぼっと目元までかぶせてくる。びゃっと悲鳴を上げると、アメリカは吹き出して帽子をずり上げた。遊ぶなと睨みつけても笑うばかりでおもしろくない。
 むきだしになったおでこにちゅうとキスが。
 間近で見つめ合う。
「君、もこもこだ」
「そりゃこんなに着せられればな……」
「俺の服もコートも、てんで合ってないし」
「……不恰好って言いたいんだろ、体もっと鍛えろとかなんとか」
「ううん」
 右手に手袋をつけるためにかアメリカはうつむいた。さっきまであんなに勢いがよかったのに、なんだか様子がおかしい。
 小首を傾げて言葉を待つ。
 なにを言うのかと思えば。
「かわいいなって、思ってる、よ。……もこもこも、サイズ合ってないのも、全部」
「えっ、今なんて」
「ああああいや別になんにも! 聞こえなかったんならそれでいいよ忘れて、忘れろ! ……よっよし行くぞマックマック、ほら早く!」
 手袋の片割れをきゅぽんと左手につけられて、右手はそのままさらわれた。帽子をまた目深に引き下ろされる、かぽっとイヤーマフまではめこまれる、片手で直しながらついていく。
 アメリカは左手、イギリスは右手をはだかにしたまま外に出る。玄関に鍵をかけると、きゅっきゅと雪を踏みしめ薄暗い道を歩く。
(…………)
 つないだ手は今や外気にさらされておらず、アメリカのコートのポケットの中でしっかりと握られている。おかげで寒さはまったく感じなかった。
 前を歩くアメリカはいっこうに喋ろうとしない、振り向きもしないし、速度を緩めようともしない。
 イギリスの頬はだんだんと明るんでいく。夕暮れの中でも見える、見えてしまう、アメリカの耳の色。
 帽子を俺に貸したりするからそうなるんだと言ってやりたい、けれど、それを言ってしまうと拗ねられそうで言えやしない。
(あと、さっきの言葉も、聞こえてた、し)
 聞こえてないとでも思ってるんだろうか。イギリスが地獄耳なことなんかとっくにバレてるはずなのに、それでも? それともまた知らんふり?
 血色のいいみみたぶを見上げ、すべって転ばないよう気をつけて足を動かす。
 イヤーマフでもつけてやろうか。でもきっとその赤みは寒さのせいなんかじゃ――
(うう、)
 雪はしんしんと降っている。当分やみそうにない。
 この静けさも寒々しさも、今の自分たちにはなんの効果ももたらさないなと思った。
(……は、はずか、し)
 胸がうるさい、体が熱い、それはきっと着込みすぎなせいではなくて。
 きんと冷えこんだ白い世界の中、かっかと顔を火照らせる自分たちはなんて場違いなんだろう。
(忘れろって、忘れられるわけないだろばか!)
 イギリスはもう一度だけみみたぶを見上げると、握られている指に力をこめた。
作品名:ruddy -UK.ver- 作家名:初音