真夜中の電話
「ん……、だれ……?」
真夜中、すっかり夢の中へ旅立っていた帝人の耳に飛び込んでくる着信音。
そういえば、今日はマナーモードにするのを忘れてしまっていたような気がする。
ゴシゴシと目を擦りながら、携帯のディスプレイに目をやれば着信相手の名前が表示されていた。
「うわ……、臨也さんだ」
名前を確認して、思わず帝人は眉を寄せる。
そして時間を確認すれば、夜中の三時半過ぎ。
(……なんか、嫌な予感がするし……。無視しよ……)
帝人はそう思い、パタンと携帯を閉じて再び布団へと潜り込んだ。
しばらくすると、着信は鳴りやみ、また部屋には静寂が戻ってくる。
帝人は携帯をマナーモードに設定してから、再び夢の世界へと旅立とうとした。
のだが、すぐに今度は着信ではなくマナーモードにしたのでブルブルとバイブの音が鳴り響く。
「……………」
着信音と違って、無視できないほどの不快感はない。
だがしかし、意識してしまうと、どうにも気になる。
「……、ああっもう!もしもしっ!?臨也さん、こんな時間に何の用ですか!?」
結局帝人は少しの逡巡のあと、携帯を手に取ってしまうのだった。
『……………』
「もしもし?臨也さん?」
だがしかし、携帯からは何も聞こえてこない。
「こんな時間に、無言電話ですか?非常識なのは前々から知ってましたけど、いくらなんでもこれは酷いですよ!」
眠気とか色々な感情が渦巻いて苛々と帝人は電話口に叫ぶ。
だがしかし、一向に電話口からは声が聞こえてこない。
いい加減に腹が立ってきた帝人が、電話を切ろうとした時だった。
『……みかど、くん……』
「……臨也さん?どうしたんですか、何かあったんですか?」
突然聞こえてきた、普段の臨也からは想像の出来ないようなか細い声に帝人は思わず携帯をギュッと握りしめる。
『……こんな、時間に、ごめ……ん、ね……。でも、どうしても……、最後に、帝人、くんの声が……聞きたくて、さ』
「臨也さん!?最後って……、何、何言ってるんですか!!」
『……あは……、ちょっと、失敗、しちゃってさ……、………帝人くん。……好き、だよ……』
「臨也さん!?臨也さん!!」
帝人は懸命に叫んだが、電話はその言葉を最後にプツリと切れてしまった。
無機質な通話の終了を告げる音だけが、鳴り響く携帯を帝人は呆然と耳に当てていたがすぐにハッとすると布団を飛び出した。
(臨也さんに、何かあったんだ……!)
取る物もとりあえず、帝人は寝間着のまま玄関へと走る。
臨也はどこに居るかなんて、見当もつかない。
けれど、このまま何事もなかったように無視することなんて、出来なかった。
縺れそうになる足を何とかして、帝人は靴を履いて玄関を飛び出した。
その時だった。
「やぁ!帝人くん!」
「…………臨也、さん?」
玄関を出てすぐの階段に、何故か臨也が座り込んでいた。
そして帝人の姿を確認すると臨也は嬉しそうに立ち上がって帝人に抱きついてくる。
「ちょ、え、何ですか、これは一体どういうことなんですか」
「んー?」
帝人はギュウッと抱きついてくる臨也をグイグイ手で押しながら、何となく予想はついていたが尋ねる。
すると臨也はニッコリと笑顔を浮かべながら言うのだった。
「んー、ほら、何て言えば良いのかな。真夜中唐突に帝人くんに会いたくなって俺は会いに来たけれど普通にやっても君は俺を家にいれてくれないだろうから、一芝居打ってみようと思ったんだよね。そして慌てふためいて俺を心配して玄関を飛び出してくる、そんな君の顔を見たかったから」
「本当うざいです、死んで下さい」
「あはは。でもさぁ、帝人くん。俺が死んだら、哀しいでしょ?」
「哀しくないです。むしろ今すぐ死んで欲しいくらいです」
淡々と帝人は述べて臨也の腕から離れようとしたが、それを許さないと言わんばかりに更に帝人に抱きつきながら臨也は笑うのだった。
「帝人くん、嘘下手だよねぇ。耳、真っ赤だよ?そんなに俺のこと、心配だった?」
「……っ、臨也さんなんか、嫌いです。大嫌いですっ」
「うん。でも俺は帝人くんのこと、大好きだよ」
そう言って屈託無く笑う臨也に、色々とどう表現すれば良いのかよく分からない複雑な気持ちを抱きながら帝人は臨也を部屋へと上げてやるのだった。
『真夜中の電話』
(絶対次はもう出ないっ!)