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眠り姫

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山中が病院を訪ねたのは、NYを離れる前日だった。
(このまま海江田さんに会わずに行っていいの?)
度重なる速水の説得にしぶしぶ頷いた途端、まるで待ち構えていたかのようにあっと言
う間にお膳立てが終わってしまった。
正直なところを言えば、山中は海江田に会うのが怖かった。
会えばやまとを沈めたことを報告しなければならないし、何より海江田が二度と目覚め
ないということを受け入れねばならないから。

 海江田の居場所が無菌室だとあって覚悟はしていたが、執拗なほど何度も消毒されて
やっと山中は海江田との面会を許された。
白一色の無機質な部屋の中に、機械で繋がれた海江田は眠っていた。
「艦長…」
何度もTVでは見ていたが、自分の目で見るとまた違った。
シーツの上に力なく伸べられた手に触れると確かに温かいのに、海江田がもう目覚める
ことはないという残酷な現実を山中は受け入れたくなかった。
「報告が遅くなって申し訳ありません」
ベッドの脇に跪いて、山中は頭を垂れた。
「艦長にお預かりしたやまとを、沈めてしまいました。本当に…本当に申し訳ありません」
 海江田不在の間、やまとを任されたのは副長である自分だった。それなのにやまとを沈
め、大事な仲間を殺しかけた。
 どれだけ詫びても許されることのない罪を、裁けるのはただひとり。だが、それももう
叶わない。それでも山中は詫びずにはいられない。
(…?!)
 不意に山中の背後がざわめいた。俯いたままの山中には何が起こったのか一瞬わからなかったが、自分の手に触れる感触が変わったことに慌てて顔を上げた。
 薄く潤んだ黒い瞳が、自分を見つめていた。山中の手を握る力は悲しいくらいに弱かっ
たが、それでも海江田は山中の手を握って微笑んでいた。
「艦長…っ!」
 雪崩れ込んできたスタッフらに押しのけられるように、山中は病室の外に出された。
「…良かったね」
 廊下で待っていた速水が、小声で囁いた。
「俺も、フネとあの人を失くしそうになったことあるからさ」
「…」
 東京湾でサザンクロスが沈んだ後に何があったのか、山中は最近になって知った。
普段憎まれ口を叩いていても、速水が深町をどう思っているかは山中も良く知っている。
だからこそ、今回こうやって世話を焼いてくれたのだろう。
「感謝する」
「いいよ、別に」
 頭を下げた山中に、速水が笑った。

「…申し訳ありません」
 病院を出た足で、山中はストリンガーを訪ねた。
 海江田が目覚めたこと。目覚めた海江田の傍に居たいこと。拙い英語で伝わるか自信が
なかったが、山中は懸命に話した。
「つまり…タービュレントから降りたい、と?」
「はい」
 出港前で忙しいだろうに山中の面会を許してくれたストリンガーは、山中を一瞥すると
破顔した。
「眠り姫を起こした騎士を連れて行ったら、俺がカイエダに怒られる」
 豪快に笑ったストリンガーが、山中に手を差し出した。
「カイエダを頼む、イグゼック・ヤマナカ」
 大きな手のひらが、力強く山中の手を握った。
「…命に代えても」
 誓いをこめて、山中もしっかりと握り返した。


作品名:眠り姫 作家名:よーこ