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涙どうして流れるのか、今まで僕は理解する事を放棄していた。

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一人、何処かで死んでしまったらしい。

 いつも漆黒のソファに腰掛け木製の豪華な机の上で書類を書いている筈の彼が、ソファに座ってはいるものの筆もペンも持たずにただボウと構えていた。
 いつもは爛々と輝くその金色の瞳が黒く翳り、生気がない。
 そしてなにより、頬に幾筋もの線が現れている。それは紛れもない、涙の跡だった。
 彼は泣くという行為が多大なる影響を第三者にもたらすのを知っているからか、泣く時はいつも自室に籠りきり。
 綱吉君、と小さく呼べばまるで魂が還ってきたと言わんばかりにはっ、と此方を向き、頬の跡をぐじぐじと手で拭く。
 机にはクリスタルガラスで出来たコップが鎮座しており、中には黄金色の液体。
ウイスキーを呑んでいたらしい、哀しみを紛らせる為だろうか。
「骸…………」
 眼は段々と醒めてきた模様で、今飲んでいたらしきウイスキーのような瞳がはっきりと色濃く見える。
 その台詞はまだ続きがあるかのよいに思えて、じ、と相手を見据える。
「また……、一人死んだんだ。また、俺の所為で。俺が頼んだ仕事が悪かったんだ……」
 さ、と顔に蒼さが交じり、それを誤魔化すかのように時間をおきすぎて氷が溶けた氷割りのウイスキーを一気に飲み下す。
「…………、そうですか。でも君は悪くないですよ」
 悪いのは仕事を遂行為損なった人が悪いんです。
 そう、続けると彼は覚醒した時のような紅と橙の瞳で僕を睨み付ける。
「骸……、お前は……!」
「クフフ、なんでしょう?」
 君の姿はやはり美しい。覚醒した時は格別に綺麗だ。十年前僕を焼いたその炎は気高い獣を連想させる。僕が持っていたどす黒く綺麗の欠片もない代物とは天と地の如く、違う。
 その姿を想像しながら相手を見つめていたのだが、その予想に反するの反しないのか否か判断に難しい風体、でもそれもまた綺麗だと思っていた矢先、
「どうして仲間が死んだというのに楽しそうに笑っている?」
 あり得ない、と言わんばかりの悲壮な顔付きをしながら僕を見つめる。
 楽しそう?

 当たり前だ。

 君の回りから僕を邪魔する存在が消えたんだから。
 それに誰かも憶えていない相手に感情を安売り出来るほど僕は感情豊かではない、寧ろ乏しいというのに。
 君を、この場所を、守る為にそれが命を散らしたのならばお疲れ様、と彼方に送るのが順当だろう。どんなに醜い人でもいつか、なにかに、変わって生まれ変わるのだ、悲観する必要性などない。
「じゃあ君はずっと哀しむのを故人は望んだと思うのですか?」
 僕は思わない。僕らは命を潰しても主が助かればそれでいい。生まれ変わる事はあるけれども、例えどんなに哀しんだとしても故人はこの世に生き返る事など一切の可能性もない。
 ただ、それだけでそれでしかない。なにも変わらないのなら、泣かないでいいだろうに。その考え方はどうやら彼には通じないらしくて、涙をぼろぼろと流していた。
「お前に、慈しみはないのか?」
 嗚咽混じりに口から零るる言葉はあまりにも悲痛過ぎた。
 部屋の隅にあった革張りの丸椅子を引き摺りながら彼の横に設置し、深く座る。それを確認しながらも、彼は隣に置いてある小型冷蔵庫からウォッカを取り出しグラスに注ぎはじめ、それを飲み干したかと思えばもう一杯注ぐ。
「僕は君みたいないい生活を送っていないもので他人に割く事ができる感情なんて無駄なものを持ち合わせる余裕なんてなかったです」
 サイドテーブルに入っていた新しいグラスにウォッカをなみなみと注いだかと思えば僕の目の前に置かれた。
 こちらも一息で飲み下せばアルコールが喉を焼く。黄金色の液体は胃の中に吸収され、いずれは肝臓への毒となるとわかっているのに気持ちが良かった。
「そうか……そうだったよな…………」
 幼い時から人間らしい生活など程遠く、他人を殺す為と言わんばかりのモラル等カケラもない人体実験。地獄か悪魔としか形容し難い生活を過ごして、その場所から抜け出せ、幾人かの部下と幾人かの操り人形を手に入れてこの世界ごと壊してやろう、と思った矢先、よくもまぁわからない理由で監獄に連れていかれた。そこから死に物狂いで脱獄し、逃げて逃げて安定した生活を求めて今の主に牙を剥いたのに勝てずにまた監獄に戻された。
 その後も他人の為と云うよりも自分に打ち勝つため、そんな一生で楽しみや嬉しさなど感じた事がない、そんな散々な人生だ。
 そんな事があったのに僕は十年前、自分の支配下に置こうと模索した男にすがるように生活をしている。
「えぇ、まぁ……」
「………………俺の気持ちを他人に押し付けるのは野暮だったかな」
 グラスを揺らせばからん、と涼やかな音が響いては消える。
「大丈夫です、気にしないで下さい」
 しゅんと萎えてしまった髪の毛に手を伸ばし、ゆさゆさと撫でれば掌に暖かみを覚えて急に愛しくなる。
「骸……、お前はいなくならないよな?」
「えぇ……、君は僕の主ですから」
「主なんて関係ないんだよ……、お前さえ生きてれば……」
「そんな事、言わないで下さい」
 僕がこの壊したかった、大嫌いな世界でも生きてみようと思わしてくれたのは、君なのだから。
 君がいたから、君がいるから、これからも君はいるだろうから。僕はこの世界に息づいているのだろう。
 実に単純明快、泣けるまでわかりやすい方程式だけれども、この世界に疲れずに生きるのにはその位が充分だと思う。
「うん……」
「僕は泣き方がわかりませんだけれども、」
「ん?」

「君が死んだのなら、泣くのでしょうね」

 涙を流す方法は忘れてしまったけれど、君の為に泣くのなら、涙を止める方法なんて解らなくなってしまうだろう。と、他人事のように思った。