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宝石になんてなりたくない。

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 しずちゃん、と呟けば、僅かに身じろぎしたのがわかった。ちいさな振動が、はっきりと伝わってくる。少し硬くて、それでもしなやかな筋肉が、ぐっと収縮した。
 頭の上からとても穏やかな、けれどどこか困惑したような声が、いざや、と呼ぶ。
 それだけで充分だ、と臨也は細く細く息を吐いた。すべてを余すところなく吐ききると、肺の蠕動に合わせて身体がふるえる。そしてそれはまた、相手にも伝わったのだろう。
「・・・・・・んだよ・・泣いてんの・・か・・・・」
 困ったような声色が振ってきて、臨也はただ首を振った。正確には、首を振ろうとしたが、できなかった。なぜなら今ちょうど臨也の頬は目の前の膝に押し付けられていたから、だ。これではいくら首を振ったところで、ただ甘えているようにしか見えない。
 しかし臨也はただ首を振りつづけた。ひたすら臆病に祈りながら。
 みえない何かにおびえているのはとても、苦しい。おびえて、おびえつづけて、それでも終わりなどみえないままで。自分でもどうしようもないほどそれは事実だ。けれどもそのやさしい膝に縋りついて、やさしい声を聞いて、今それがずっと続けばいいと思っている自分を臨也は消したくない。ずっとこうしていられればいい。ずっと。ずっと──。
「・・・・・泣くな・・・」
 くしゃりと髪に指が触れ、臨也の肩がはねる。掌がゆっくりと頭を撫で、あやすようにそっと動いた。
 やさしい。あたたかい。やさしすぎて。臨也は息をするのもつらくなって頬を押し付ける。終わらなければいいこれがあたりまえでふつうで何事もない日常であればいいのに。どうして──どうして自分はゆるせないんだろう。ふつうでいることを、愛せなかった、のだろう。
 そして、こうしておびえつづけて、安堵して、まだおびえて、何よりも信じてほしいくせに逃げたいとも思っていて。殺しても死なない人間でいられたら、よかった。嘘みたいにつよく信じられる価値のある人間でいられたら。上手に笑うことばかりうまくなって、それでもその誤魔化しがいつまで続くか自分で信じられなくて。終わりを見ながらも、まだ走りつづけるしかなくて。逃げ切れるとも、本当はきっと、思っていないのに。
 なんて馬鹿な俺。自分をいちばん憎んでいるくせに人間が好きだなんて。自分がいちばん大事なくせに人間が好きだなんて。人間が好きだなんて。いちばんすきなものはにんげんなんかじゃないくせに──!!!!
 唇を噛んで臨也はただただ何かに祈りつづけた。きれいな言葉など残らず消えてしまえばいいと、思いながら。ねがいつづけた。一生気づかなければいいと、思いながら。

 雨のようにそっと一粒、涙がこぼれていった。





(ねえ・・・・もしおれが・・・)