沈黙の果て
最初は、彼女達に会うために池袋に通っていた。
だけど、彼女達に会えなかった時は門田の所に行っていた。
最初は、ただ、それだけだった。それだけだったのだ。
なのにそれが、いつから、いつから―――・・・・・
・・・・・・・―――門田に会うために池袋へ行き始めたのだろう。
最初は、彼女達に会うために。
でも、会えなかった時は、そのまま埼玉に戻るのも何か癪だし。と思って門田の元へと遊びに行っていた。
最初は、ただそれだけだったのだ。
それだというのに、気付いたら俺は彼女達ではなく、門田に会うために池袋に通い始めていた。
その頃から、なんかおかしくねえか?と思い始めていたが、何がおかしいのかわからずに、その気持ちもなかったことにした。
いや、そもそもそんな気持ちは忘れてしまっていた。
だって、楽しかったんだ。何か。
基本的に俺の周りには、彼女達も含めて、俺に着いてくる奴等しかいなかったから。
それに、俺の周りに居る奴は、俺を六条千景として見てくれる奴が居なかった。
だけど門田は違ったから。
俺を六条千景としてきちんと見てくれたから、だからこそ心から楽しめたし、嬉しいとさえ思ったのだ。
だからきっと、俺は門田ともっと一緒に居たいと思うようになったのだろう。
・・・・・・・・と、思えたのはいいが、だがしかし!
この感情はなんだ!
おかしいだろおかしいだろおかしいだろ!
ああもうこれか!前に一瞬何かおかしくねえか?って思った事は!
だっておかしいだろこんな感情。
まるで恋でもしたような・・・
っていうか、俺が池袋に頻繁に通う理由が確実におかしいだろ。
なんで門田?何で門田が理由なんだよ!
何だって言うんだよ!俺は恋する乙女かなんかか!
「おい、千景?」
「ううーん・・・」
「おーい」
「っ!?あ、うん?何っ?」
そして門田の家の部屋の片隅。
俺が頭を抱えて悩んでいると門田が俺の顔を覗き込んできた。
それに慌てて返事を返すと、門田は俺に大丈夫か?と問い掛けてくる。
「思い切り頭抱えて・・・なんかあったか?それともどっか具合でも悪いか?」
「あ、いや・・・・・・別に、そういう事は、ない・・・けど」
「けど?」
門田の問いに、俺はしどろもどろに答える。
・・・・・・ああもう。
いっその事全て話してしまおうか。どうしようか。
もし話したら、どう思われてしまうだろうか。
そんなの気のせいだろ。と笑ってくれるだろうか。
「・・・・・・俺、アンタの事、好きだ」
・・・・・・・・・・・・・あ?
いやいやいやいや、今俺なんつった!?
今俺普通に『好きだ』とか、言った!?
あああ、頼む、笑って流してくれ!いや、笑わなくてもいい。なんでもいいから流せ!
と、そう思いながら、口がうっかり滑った事への恥ずかしさと、告白してしまったという事実により、俺は顔に熱が一気に集まる感覚を感じる。
「・・・・・・・お前、狩沢の奴に感化でもされてねえだろうな?」
「・・・・・は?」
すると、門田の口からは予想外の言葉が返ってきた。
なんで、そこで絵理華さんの名前が出てくる?
感化?って、なんだそれ。
「なんでそこで絵理華さんが出てくるんだ?」
思わず首を傾げながら俺は門田に訊き返す。
門田は、「別に、感化されてないならいいんだ」と小さく呟く。
俺に聞こえるか聞こえないかという程の声の大きさで。
そして、門田は俺に意を決したかのように向き直る。
「・・・・・・お前は、俺にどういう風にとって欲しいんだ。その言葉を」
「・・・っ!そ、れは・・・・・・っ」
「いいか、俺はお前の返答によっちゃ、お前に対する態度を改めなきゃならねえ。勿論、どっちにしろお前の気持ちは受け取るつもりでいるが、俺から気持ちを返すかはわからねえ」
「・・・・・・・・・・」
・・・これは、どう、答えればいい?
ていうか、なんで受け入れようとするんだ。
優しいのか酷いのかわからねえ。こんな、『優しさ』は。
だが、そもそも、俺はこの気持ちがよくわからない。
こんなの、きっと初めてだから。
「どっちがいいんだ。お前は。友情か、恋慕か」
「・・・・・じゃあ、試させて」
どちらがいいのか。そう問われ、俺は咄嗟に、
咄嗟に俺は、門田を――――――・・・・・・押し倒した。
・・・・・・・・・正直、自分でも何がしたいのか皆目検討もつきゃしない。
だけど、ここで引き下がってはいけないとも思う。
門田を見ると、門田は俺の手を振り払うわけでもなく、どうしたものか、と思考を巡らせているようだった。
・・・・・・ああ、頼むから、期待させないでくれ。
そこで俺は気付く。
門田に対する思いは、友情などでは確実にない。という事に。
これは、紛れも無く恋だ。愛だ。
どうしようもなく、ただの恋で、ただの愛だ。
恋情と愛情だ。
「俺の気持ちは、決まった。あとは、アンタ次第だよ」
言葉を区切りながら、俺は門田にわからせるように告げる。
俺がそう言い終えると、門田は目を一度伏せる。
そして一言、「わかった」とだけ言う。
しかしその後門田はただただ黙りこくるだけで、何がわかったのか、検討がつかない。
検討がつかないまま、俺は沈黙する。
門田も言葉がそれ以上続かないのか沈黙している。
「・・・・・・あ、アンタは・・・どうなんだよ。俺の事、どう、思ってる・・・?」
だが、その沈黙に耐え切れなかった俺は、意を決して門田にそう尋ねた。
「・・・・・・嫌なら俺は、お前を突き飛ばしてる。・・・どういう意味かわかるか?」
すると門田は割とあっさりとそう答えた。
「・・・・・・・・・・・ちゃんと言ってくれなきゃわからない」
その答えは、俺の事が好きだという確かな肯定だったが、俺はあえて、それを聞かなかったことにしてそう訊き返した。
我ながら酷い奴だなと思う。
だけれど、やはりちゃんと言って欲しい。
「なあ、アンタは俺の事、どう思ってる?」
沈黙の果て
(「・・・・・・・・・・俺も、好きだ」)