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飽和している思考

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ぎゅっと手を握れば、生きているのを感じる。
「俺、一度だけ、死にたいと思ったことがあるんだ。」
特に意識して聞いていたわけじゃなかったから、危うく流してしまう所だった。内心だけで慌てて、目を上げれば笑った一之瀬の顔があった。
「なんで?」
「なんでだろうね」
はは、と、渇いた、困ったような笑いがこちらに向いている。半田はどうして良いか分からずに一之瀬の瞳を見た。引きずり込まれそうになったのは黙っておく。

慌てて目を逸らせば一之瀬は何かを思ったらしく、
「今は思ってないよ。本当に」
と笑顔で付け足した。
(嘘だ)
はた、と半田は思い至った。
確証はないが絶対そうだと確信した。なぜなら一之瀬は笑っていたから。下手な笑顔だ、と半田は思った。
「…どうして」
「ん?」
隠すようなことをするのだろう。もう別に、出会った当初のようなよそよそしいただのチームメイトでも、背番号を半分持って行かれたなんていう馬鹿らしい恨みを抱いているわけでもないのに。まあ、背番号を持って行かれたことに関しては、半田は正直元より大して何も思っていない。あの状況で彼の位置が一之瀬に変わるのは当然で必然で、至極当たり前だったからだ。悔しく無かったなんてのは嘘だったが、あまりにも違いすぎる一之瀬との差を沁みるようにありありと感じていたので、そのせいか半田の立ち直りは異様に早かった。
二人きりになることは最近までほとんど無かった。黙っていても人が集まってくる一之瀬というヒーローと、なんだかんだ言って面倒見良く後輩たちに慕われる半田という人間に、共通点など塵のかけら程も無かったからだった。半田にとって一之瀬は、ただの、友人と呼ぶには少し遠い、それでも他人には近い存在だった。
なぜ半田は一之瀬とああいう、言うなればそういう関係になったのかというと、彼はおぼろげにしか覚えていない。確か、一之瀬の中に沢山のものが雑多に掻き混ぜられた光景しか見ることが出来無かったのを、ある日少しの好奇心から尋ねてみたからだった気がする。
『一之瀬は』
『      』
あの時なにを言われたのかなんて忘れてしまった。半田の頭の中で半田は、色々などうでもいい記憶と一緒に忘れた、という広大な海にそれを沈めてしまったようだった。つくづく肝心な事ばかりできない脳である。半田はけだるい息を吐いた。
「どうしたんだ?」
一之瀬の間抜けな顔が目の前にあった。相変わらず沢山のものがないまぜになったよくわからないものが一之瀬の中に見えた。

「別に。…一之瀬って、本当はゲイ?バイ?それともレズ?」
言えば一之瀬に笑いながら頭を叩かれた。痛くは無かった。
「そういうこと聞くか?普通」
「いや…」
ゲイかバイか聞いてもレズはないだろ、と苦笑しながら言われた。
確かに、よく考えればそうだった。
作品名:飽和している思考 作家名:ろむせん