嫌われ者の呟き
「やだなぁ、雨……」
ビニール傘を手に、帝人は家路を急ぐ。
そんな時だった。
「ん……?」
雨音に紛れて、微かに何かの鳴く声が聞こえた。
(なんだろ……?)
キョトンとして、帝人は声の方へと近寄ってみる。
そして、すぐに鳴き声の正体が分かった。
「猫だ……」
段ボールの中に、無造作に猫が一匹詰められていた。
どうやら、捨て猫らしい。
「……雨に濡れて、可哀想だな」
帝人はそう呟いた次の瞬間にはその猫を抱き上げていた。
別に飼うつもりはなかった。
というより、自分一人の生活で手一杯なのだから、猫などを飼う余裕はない。
それは分かっていたのだが、冷え切った猫の身体に触った瞬間、このまま雨の中に置いていくのは、嫌だった。
だから、せめて雨が止むまで面倒見ようと、帝人は再び家路へついたのだった。
「やぁ、おかえり帝人くん。寒かったでしょ?タオルいる?」
「…………臨也さん。どうして僕の家に居るんですか?」
「ん、いつもの事じゃないか。気にしないで欲しいな。って……アレ?」
臨也はふと、帝人の抱えているモノを見つめて目を丸くした。
「帝人くん、その猫どうしたの?」
「え、あぁ、拾ったんですよ。タオル、貸して下さい」
帝人は臨也からタオルを受け取って、そっと猫を包む。
猫は、ぐったりと眠っているようだったが、命などに別状は無さそうだった。
そんな猫をそっと居間に置いて、顔を上げると臨也が非常に物珍しそうな顔をして猫を見ていることに帝人は気づく。
「ね、その猫飼うのかい?」
「いや、流石にちょっとそれは無理なんで。でも雨の間くらいは、良いかなって」
「へぇ……」
そう言って臨也はジィっと猫を見つめたまま、動かない。
「臨也さん?」
「いや、なんか、猫って結構可愛いなぁと思って。俺、犬より猫派なんだ」
「そうなんですか。抱いてみます?」
帝人はそっと猫を抱き上げて、臨也の方へと差し出す。
「……俺、動物抱くの初めてかも」
なんて、臨也は呟きながらそっと猫を抱いた。
その瞬間だった。
「ふしゃぁー!!にゃー!!」
「うわっ」
あんなにぐったりしていた猫は、臨也に抱かれた瞬間暴れて、そして腕から飛び出して再び帝人の元へと飛び込むのだった。
「…………」
「…………」
思わず二人とも固まる。
流石の臨也も、予想外だったらしい。
「あ、その、臨也さん。ほら、動物って本能で危険を判断するんで、仕方ないですよっ!」
「ねぇ帝人くん。それってフォローになってないよね?」
「すみません」
臨也は猫に引っかかれた手をさすりながら、溜め息をついた。
「……まぁ、よく考えたら俺って昔から動物には嫌われてるからなぁ……」
「それって、人間も含めてですか?」
「帝人くん、いい加減にしないと怒るよ?」
「すみません」
謝りつつも、流石に凹んでしまっているらしい臨也に帝人は思わず苦笑した。
「なに?」
「いや、なんだか臨也さん、可哀想だなぁって思って」
「……放っといてくれる?どうせ、人間を含む動物全ての敵な男だよ、悪かったね」
「あはは」
けれどふて腐れる臨也の頭をやんわり撫でながら、帝人は笑って言うのだった。
「大丈夫ですよ、僕は、臨也さんのこと、大好きですから」
「え?」
「全生物が、臨也さんのこと嫌いになっても、僕だけは好きで居てあげます。だから、安心して下さい」
「帝人くん……」
帝人の言葉に、臨也は嬉しそうに飛びつくのだった。
『でもやっぱりさ、』
(こんなに人も猫も愛してるんだから、もっとみんな俺のこと愛すべきじゃない?)
(あはは、それは諦めた方が良いと思いますよ)