掌に灼熱
まるで音をまるごと呑み込んでしまったかの様な静寂ーー。
その街の東端の山稜を臨む丘へと続く道を、夜陰と同じ色の髪をした少年が一人昇っていた。
取り戻さなくてはーー。
少年は、人ではなかった。
その身に大地を、血潮には水脈を湛えるかの少年は、先刻から飽きもせずに、空へと延びる峰を仰いでいる。
取り戻さなくては。
自身の身体を。虐げられた神を。人を。
自我の芽生えと共に彼が知ったのは逃れようのない渇望だった。
蹂躙された土地で、その身を取り戻す戦いのなか生を受けた彼の瞳は、今は暗澹たる闇にその光を隠している。
異教の者が足を踏み入れ、どれ程の時が過ぎたのだろうか。彼自身その正確な年月を数えることはとうに放棄してしまって判然としない。
しかしーー。
それも今日までだ。
少年は無意識に口角が上がるのを感じた。
突き上げるような高揚は、この地の、虐げられた人の叫び。訪れる、自由への歓喜。
あと数刻もすれば日が昇る。永きに渡り、それだけは自分にも平等だった日の光が降り注ぐ。
これで終わりだ。
もう何も奴らに与える必要はない。
例え、日の光でさえも。
そう。これからは俺だけに降り注げばいい。
俺は、太陽の国ーーー。
紺青の空に一閃の光が奔る。
夜が、明ける。
さぁ、宴の始まりだ。
1492年 グラナダ陥落
レコンキスタ 完了