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短編集・BLEACH

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京楽・浮竹


「大変、その、有り難いことだとは思うんだが」
淀む緑の色はいつもの浮竹らしくなく、それが自分の引き起こした事態だということに京楽は当然気がついてはいる。しかし謝罪するつもりは毛頭なかった。
初夏の宵は更けていても暖かく、吹き抜ける風が心地いいほどだというのに浮竹は寒いとでも言いたげに手をすり合わせながら言葉を探している。 

「その光栄だと言おうか、なんというか」

ああ、なんという歯切れの悪い言葉だろう。
いつも明朗快活を絵に描いて額に飾って壁に張っていたら特賞と取れたような姿が、まったく精彩を欠いている。持て余す場を塞ぎたかったのだろう、伸ばした手が湯呑をもった。茶を入れることで、少しでも時間稼ぎをもくろんだのかもしれないが、残念ながら湯呑の茶は八分目は入っている。その上持つには熱すぎ、口に運ぶのにも時間がかかるはず。そうなるように自分がしたのだから間違いない。
結局、浮竹は口を開くしかないのだ。ちなみに茶菓子は切れている。
まさか誰か隊員を呼んでまで菓子を持ってこさせることもないだろう。そこまですれば間違いなく、京楽の先ほど発した問いは流れてしまうが、そこまでされてしまえば運がなかったとあきらめるだけだ。
深い、深すぎるため息が耳に届く。京楽は塞げなかった場の空気を感じほくそ笑んだ。我ながらこの心境が腐っていることは百も承知だ。

「お前とは何百年にもわたる付き合いで、ともに苦境を乗り越えてきた」

浮竹の声の調子が変った。目に力が入っている、というよりはむしろ座っている。


「つらい時にも傍にいて、楽しい時や嬉しい時にも傍にいた。体の弱い俺を気遣ってくれたのもお前なら、勉強をさぼってはアワや退学になりかけたお前を救い出したのは俺だ」


後半は別段思い出していただかなくても結構な内容だが、間違いなく京楽と浮竹の間にあった真実だ。しかし語られている内容はどうだろう、どこぞの卒業式の答辞や送辞と大差ない。
自分達が卒業式なんて言うものをしたのは随分と昔のはずだ、そういえば浮竹はそこで毎年送辞をし、最後の年には答辞で飾っていた。その頃を思い出し、ずいぶんと物持ちのいい記憶だと京楽は感心する。
要するに彼が話している内容は、そんな挨拶集に掲載されているような内容だ。そんな陳腐な言葉しか思い浮かばないほど、浮竹は追い詰められているのだろう、今しがた京楽が発した言葉に。そう思えばこれもまた楽しいやり取りだ。

「初めて魂葬に行ったあの時も」
「ねぇ、浮竹」

今まで心では雄弁に語っていたが、言葉での沈黙を守ってきた京楽が口を開いたことで、ぱたりと浮竹が口をつぐむ。
深い穴でも覗き込むような視線を送られ、ことさら優しく見えるように京楽はほほえみを返した。ここで逃がしてなるものか、思い出に逃げ込まれている場合ではない。

「その素敵な記憶力を、ついさっき僕が言った言葉に対して使って欲しいんだよ」
「…う……だから、その光栄なことで身に余るというか…」
「そうじゃなくて、君の言葉で聞きたいんだけどね」

さて、どうでるか。
逃げ道は考えられる限りで塞いでおいたはず。
眠る時間でもなく、茶はまだ飲み干すには熱く、茶菓子もない。言葉遊びは止めようとたった今釘も刺した。
言葉でも、モノでも、とりあえず使えるものはすべて使って、この状況に持ち込んだのだ。そこまでして、大人げないと言われてもかまわない。大人で、かつ大人げないから、今までこうしてともすれば彼岸に行きたがる男を追ってこれたのだと京楽には自負がある。

「………」

結局言葉で聞くことはできず、京楽は熱い抱擁で答えを聞くこととなった。


『僕さ、毎日君に惚れ直して、愛してるんだけど君はどうなの?』
作品名:短編集・BLEACH 作家名:那々思