リオ・ナユ
その後皆で本拠地へ戻る。
ナユは手鏡で戻れば早いのだが、すぐ帰っても多分すぐに会議になるだろうな、という事と、久しぶりにあったカイリやテッドともゆっくりしゃべりたいと思ったので少し途中まで歩いて帰る事にした。
「カイリさんとテッドさんも、ありがとうございました。」
「いや、別に俺達は特にこれといって何も?彼らを逃がすくらいしかしてないよ。」
「まあ、あのジェスってやつのツンデレ具合には驚くがな。」
「テッド。君がそれを言うのかい?」
「・・・うるせぇ・・・。」
ジロリとカイリをにらんだテッドを無視して、カイリがナユに言った。
「ナユは相変わらず可愛い姿だねぇ。久しぶりに抱っこしてもいいかな?」
「それに関しては全力でお断りします。」
「相変わらずの変態ぶりだね?カイリ。」
即断りを言うナユの横で、ニッコリとリオが言った。
「ひどいな、変態だなんて。俺は自分の本能と欲望に素直なだけだよ?」
「ちょっとは抑制しろよ・・・。」
同じくニッコリと答えるカイリに対して、テッドが呆れたように言い、その後リオに向かって続けた。
「それにしてもいきなり起こされた時はびっくりしたぜ。今回はなかなか裏で大活躍だな?」
「そんなつもりはない。てゆうかつまらない事言ってると殺るよ?」
リオはそれはそれはみごとな、いっそ優しげな笑みを浮かべてのたまわった。
ティントの山道をしばらく歩いていると、すこし入り組んだ道があった。ふいにナユはフラリとそこへ入ってみた。・・・野生の勘みたいなものだったのだろうか。ある男達と出会った。
「よぉ、少年。どうした、悩み事ありって顔だな。」
その男はナユにそう話しかけてきた。
「・・・あなた、誰です?」
いきなり話しかけてこられて、ナユは胡散臭げに聞いた。
「おお、すまんな。俺の名前はゲオルグ・プライム。まぁ、旅の戦士ってところだな、新同盟軍のリーダーさん?」
「・・・。」
「どうだい、少年?戦いは辛いか?・・・まぁ、楽しいってわけじゃなかろう。どうだ、この俺を雇う気はないか?自分で言うのも何だが、俺は強いぞ。どうだ?」
「・・・えっと・・・そんな強い方を雇えるほど潤ってはいないんですが。」
「ははははは!!!心配するな、少年。このゲオルグを雇うのに、金なんていう安っぽいものは必要ない。」
「チーズケーキで手を打とう、てとこ?」
そこにリオとカイリ、テッドが現れた。
「ナユ、お前なー、どっか行くならそう言えよな、まったく。」
テッドがナユに言った。ナユはすみません、と謝る。
ゲオルグはチーズケーキ、と言ったリオを見た。
「君は・・・リオ・・・マクドールじゃないか。」
「ええ。お久しぶり。」
なんの表情も読めない顔で、ただニコリとリオは言った。ナユがリオを見る。
「お知り合い、なんですか?」
「ああ。父の、ね。」
それ以上の事はリオも言わなかったし、ゲオルグも何も言わなかった。
なんとなく、ナユもそれ以上の事を聞かないでいると、ゲオルグがナユを見た。
「先ほどの雇いの件だが。ああ、チーズケーキ云々は置いておいて。」
あれ?無視して、じゃなくて置いておくだけ?とナユは首を傾げていたが、ゲオルグはそのまま続けた。
「この戦いが終わるまでの間、俺はお前の為に剣を振るおう。その代償として、お前はこの戦いを諦めない事。それを誓ってもらう。いいな。」
「は、はい。」
「よし。ではナユ殿。今ここより俺はあなたに仕えよう。」
「ちょっと、ゲオルグ、勝手に僕抜きでそんな重要な事、決めないでよね。」
後ろから声がした。振り返ると見事な銀髪の持ち主が仁王立ちで立っていた。
「ああ、すまんな、ていうかいい加減もう帰れ。」
ゲオルグが呆れたように言った。
「なんだよーひどいな。前に一度帰ったじゃないか。そしたら僕を置いて逃げるように旅立つんだもん。油断大敵とはこの事だよね。」
その銀髪の少年、もしくは青年はプンスカ、という擬音すら聞こえてきそうな様子で言った。
顔はそれはもうびっくりするような美形である。
「えっと・・・あの・・・よかったんでしょうか、ゲオルグさん?」
ナユがおずおずと聞く。
「ん?ああ、もちろんだ。」
「えー、そうなの?じゃあ僕もっ。」
「いや、だからお前はいい加減帰れ。」
「勝手な事したゲオルグの言う事なんか聞かないもんねー。てことで、僕もいいかな?ってあれっ?」
銀髪が近づいてきてナユをしげしげと見た。
「な、なんでしょうか?」
「なっ」
「な?」
「何この子ーっ。すっごい可愛いっ!!なんで耳!?しっぽまで!!」
そう言うといきなりナユに抱きついた。
「ギャッ、何す・・・」
言いかけたナユを抱いたまま、銀髪はさっと身をひるがえした。
ナユ達がいた場所を通り過ぎるように飛んでいくナイフ。
「いきなり危ないなぁ。何するんだよ。」
「お前こそ何?新手の変態か?」
それはそれは優しげな笑顔で、だがあきらかに黒さがダダ漏れな様子でリオが問うた。
「変態だって?ひどいな。僕はいたって普通だよ。君こそ危険人物じゃない。」
「ていうか、離して・・・」
「ん?ああ、ごめんね、苦しかった?だってあまりに君が可愛いから。僕はリシュタート・ファレナス。リシュと呼ぶといいよ。」
ナユを離してそれはそれは輝くようにニッコリと笑っていった。
「え、あの、えっと、ああ、僕はナユ、です。」
なんだか展開についていけず、だが流れと勢いでナユも名前を名乗った。
「そうー、ナユ、よろしくね。」
なんだか訳が分からないまま、仲間が増えました。