思考実験③
「と、いうわけだがお前はどう思う?」
「突拍子ないねぇ」
「で、どう思うんだ?」
「聞いてないし…。
うーん、そうだね。新しいことを学ぶと思うよ」
「なぜ?」
「知っていることと、実際に経験することは別だから。
経験してはじめて分かるって事、いっぱいあるでしょ?
赤いものを見たときに感じるのは「赤い」ということだけじゃない。
空を見たら「青」を感じるけれど、「空の青々とした感じ」というと大体の人がまぁ誤差範囲内で同じようなものを想像すると思う。
それは空の青さをみんなが知ってるからだね。経験として。
マリーはそれを知らない、あるいは知っていてもその理解の度数は俺達とは違う。
だから多分白黒の部屋にいるマリーと俺らでは「空の青々とした感じ」を共有することが出来ない。
けれど外に出て、空を見て、空の色を知ったマリーとなら。分かり合えると思うな」
「マリーが空の青を知ったから?」
「そう。
それにね、色っていうのはもっとごったなんだよ」
「ごった?」
「色は一色でいることは少ない。多くの色が隣り合っててその組み合わせは数えられないぐらい多い。
色を一色だけみることと、複数色……景色を見ることは違うんだ。景色には数えられないぐらいいっぱいの色がある。
マリーはそういうこと、理解できてなかったんじゃないかな。
一色だったらこういう色で、こういう作用があって、番号はこれだとか、そういうことは知っていたかもしれないけれど、数えられないぐらい多くの色を一度に目に収めたときにそれに対してどういう風に感じるかっていうのは途方も無い事だ」
「まあ確かに」
「うん。だからマリーは色々なことを学ぶと思う。
まぁ、こんなことじゃなくてさ。
外にでた第一歩で刺激を受けるだろうから、まずはそこで学ぶと思うけどね」
「?」
「だからさ、今までずっと黒と白を見てたんだろ?
モノトーンの世界に慣れた目に”多くの色”は強烈な刺激を与えるんだろうなってこと。黄色とか眩しいし」
「あぁ、そういうことか」
「そう。まぁそんなことはともかく色々学んで…というより色を感じて楽しんで欲しいかな。
色を見たことがないってことは食べるものも白黒だったんだろ?
白黒の食べ物なんて早々多くないから、ゲル状のものとかブロックタイプのものとかを食べていたのかもしれないし、点滴だったのかもしれない。
オズの魔法使いみたいに眼鏡をかけさせられて食事をしていたのかも。
でもなににしたってそんなの味気ないよ。食事って言うのは五感で楽しむものなんだからね」
「料理人の意見だな」
「まあね。色を知ったマリーはきっと食事の時間が楽しくなると思うよ。
赤に黄色にオレンジに緑。彩を添えて食欲をそそる色がいっぱいあるんだもん。
というわけで、俺はマリーは何かを学ぶと思う。
…いや、学んで欲しい、のかもね」
回答:新しいことを学ぶ