二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

そうだ、鍋をしよう

INDEX|1ページ/1ページ|

 
どういう成り行きだったかは誰にもわからないが、新羅の家で鍋をすることになった。
季節はもう冬を通り過ぎて久しく、真夏と呼ぶには些か早かったが、季節はずれであることは変わらない。そんなことどこ吹く風とも言いたげに、ぐつぐつと煮え立つ鍋の中身をチェックしながら、殺伐とした雰囲気の中でも相変わらず楽しそうな臨也が、菜箸を持って豆腐を投入していた。
そしてその横には門田が座り、程よく味のしみた大根を咀嚼しながら、鍋に入れる順番を臨也にレクチャーしている。静雄といえば門田の隣で黙々と蟹の爪と格闘し(力加減的な意味で)、臨也と静雄の隣には小柄な新羅がちょこんと座って、誰に話すでもなく可愛いセルティ自慢を(たとえばこの食材はセルティが切るのを手伝ってくれたとか)ひっきりなしに語っていた。
ここまでの間、四人が和気藹々と話をするわけでない代わりに、目立った喧嘩もあるわけではなく比較的穏やかに鍋の中身は減っていた。並び上臨也の前に静雄が座っているために、最初こそ、門田はちゃんと鍋が食べられるのかと心配していたが、よほど腹が減っていたのか、静雄は臨也と箸がぶつかったときぐらいしか暴言を吐かず、それこそまれにみる穏やかな食事風景に、門田はほっと胸をなでおろした。
こんな風に食べるのも悪くねーなと思いながら、門田がもごもごと口を動かしていると、豆腐を入れ終わった臨也が、白菜を入れた自分の小皿の中に湯気の立つだしを入れていた。そんなものを何の気なしに門田が眺めていると、門田、門田、と横に座った静雄が名前を呼んでいるのに気がついた。

「何だ?」
「門田、それとってくれ。」
「それ?」

静雄はようやく蟹との戦いを終えたようで、片手に蟹の身を入れた小皿を持ちながら門田に手をぶらぶらさせて見せている。
静雄のいうそれとは何か門田には皆目見当がつかなかったので、首をかしげて見せて、それって何だと問おうと思ったときにひょいと横から、静雄から見たら前から、絞られた布巾が現れた。

「はいどうぞ、シズちゃん。」
「手前に頼んでねぇ。」
「お礼くらい素直に言えないの?」

どうやらそれが静雄のほしかったものらしい。文句を言いつつも荒っぽい手つきで臨也から受け取る(むしり取ると言ったほうがいいのかもしれない)と、蟹でべとべとになったらしい手をきれいに拭き始めた。
そういえば綺麗好きだったな、と静雄を見ながら門田は思い、先ほどとったつみれを口の中に放り込んだ。

鍋の中身がほとんどなくなってくると、締めはラーメンかそれともご飯かでちょっとした論争がおこなわれた。しまいにはギョーザを入れないか、うどんでもいいんじゃないと意見はあらぬ方向に流れたが、出汁ベースだし、冷ご飯あるから粥にしようという新羅の言葉で自体は丸く収まることになる。

冷ご飯もね、セルティが用意してくれたんだよ、一緒に囲んでやれなくて悪かったなって、もう本当にあの……新羅の惚気は終わりが見えないので、門田は苛々し始めた静雄を横目に冷ご飯を受け取った。ぐつぐつという鍋の中にそれが投入されて、門田は味を整える。少々薄かったかもしれないなと思いながらも、それぞれの茶碗にかぐわしい匂いを放つ粥が盛られた。
新羅はセルティ自慢に区切りがつくと、準備をしてくれた門田に礼を言ってから粥を口に運んだ。出汁がよく出て結構おいしいなと、実は猫舌な新羅が冷ましながらゆっくりと食べてているときに、静雄がなあ、と声をかけてきた。

「新羅、あれってあるか?」
「あれ?」

今度は新羅が首を傾ける番だった。茶碗をおいて、どこにあるんだ?と言いながら静雄はたちあがり、新羅の返答を待たずにそのままキッチンのほうに歩いて行く。ちょっと、と新羅が呼び止めようとすると、これまたいいタイミングで臨也が声を上げた。

「シズちゃん。いくら薄味だからって、なんにでも塩かければいいと思うのは短絡的すぎるよ」
「うるせぇ俺の好みだ。手前がいらねぇ口挟んでんじゃねーよ。」

塩がほしかったのか、と新羅は納得し、棚の上にある小さい瓶だよーと静雄に声をかけてやる。すると、あ、これか、と目当ての物を発見できたらしい静雄がキッチンから手のひらサイズのかわいらしい瓶を持って戻ってきた。
そのまま自分の席に座り、茶碗の上でその瓶を数度降ってから静雄は箸で粥を食べ始める。好みの味になったらしくその顔はいかにも満足げだ。
そんな静雄を眺めながら、ほーとでもいいそうな顔をして門田が口を開いた。

「さっきから思ってたんだが、」
「あ?」
「よく、あれとかそれとかで言いたいことが伝わるな。」

感心したような門田のせりふに、臨也はちょっとの間静止した。それから口端を持ち上げて、余裕というか、嫌味というか、見ていて不快になる笑い方をした。それを見た新羅はあからさまなため息を吐き、我関せずと口の中に冷ました粥を放り込む。静雄といえば門田の言った言葉の意味がわからないのか、眼をぱちくりさせて箸を握っていて、臨也はそんな呆けた顔を晒す静雄に、わざと、舐めるようなねちっこい意味深な視線を向けて、口を開く。

「…まあ、もっと深いとこで繋がったりするからね。それくらいわかるよ。」

ベキョリ。
臨也の言葉から数秒を開けて、静雄の手の中で箸だったものが不自然にへし折れ、そんなかわいそうな悲鳴を上げた。静雄…?と心配そうに声をかける門田の声すら届かないのか、へし折れた箸を持ちフルフルと震える、ようやく意味を理解した静雄を、臨也は追い打ちでもかけるかのようにからからと嘲笑った。

「照れなくてもいいのに。もう行けるとこまで行っちゃってるんだからさ」
「黙れぇぇえええ!!!!!」

へし折れた箸が猛スピードで臨也のほほをかすめ背後の壁にべきっとこれまたあり得ない音を立ててぶち当たった。息を荒くした静雄は立ち上がり、ぶっ殺すと物騒なことをわめいている。門田はとりあえず二人を止めようと間に入り、こんな狭いところで暴れるんじゃねぇと諌めているが、青筋立てている静雄の耳には入らない。
一連の動作を茶碗とともに離れた場所で避難しながら眺めていた新羅は、ゆっくりと咀嚼していた粥を飲みこんで、食事中にほんと悪趣味だよねー、とつぶやいたのだけれど、机の上にあったガラスのコップが割れる音を皮切りに、狭い室内で追いかけっこを始めた二人と、二人をいさめるように立った門田にはどうやら届いてないようだった。
作品名:そうだ、鍋をしよう 作家名:poco