紅花
その一面とは独占欲。
過去に付き合っていた時には見せなかった感情。
見せなかっただけで、彼の心の中ではずっと燻っていたのかもしれない。
沙樹は胸元に咲いた赤い花を見ながらそんなことを思った。
痕をつけられたのは、一緒に生活を始めた日の夜だった。
今まで見せられなかった一面をたくさん見せられ、怖かったというのが沙樹の本音。
おそらく態度にも出ていたのだろう。
その日は痕をつけるだけで、そのまま眠りについた。
その翌日からは正臣の腕の中で眠るのが習慣となってしまった。
幸せだという感情と、少し残る恐怖心。
けれど正臣の傍から離れようと思ったことはなかった。
「正臣」
隣で眠る正臣に、沙樹は声をかける。
熟睡しているのか、反応は無い。
さらさらと流れる髪を梳きながら、沙樹は呟いた。
「大好きだよ」
そう言って、沙樹は今までの仕返しとばかりに、自分と同じ場所に紅い痕をつけた。