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覚悟

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覚悟



「檜佐木。」
その声に檜佐木が目を開けると、日番谷がベッドサイドに立っていた。
「その傷、すまなかったな。」
草冠の件が片付いて。
檜佐木も日番谷も四番隊総合詰所で休まされていた。
「日番谷隊長!!」
彼の姿に檜佐木が身を起こそうとするのを日番谷が制する。
「あの時は手加減出来なかった。傷は深いだろうしゆっくり休んだほうがいい。」
「日番谷隊長こそ、かなりの深手を負われていたというのに、俺が気遣ってもらうのは……」
言いながら檜佐木は日番谷の手を取る。
ひんやりと冷たい手。
まだ顔色は青白いままだ。
実際、かなり失血していたと聞く。
いまもまだかなり酷い貧血状態なのだろう。
それでも自分を捕らえに来た、いわば敵だった者を思いやる温かさ。
檜佐木はゆっくりと身体を起こした。
そして目の前の綺麗な隊長に笑って見せる。
「俺はもう大丈夫です。鍛えてますから。」
そう言って何気に日番谷の両手を取ると、ぐらりと日番谷が檜佐木の方に倒れてきた。
ハッとして思わず背中から手を回して支えると、その細い背中が荒い呼吸と共に上下する。
「悪ィ、檜佐木……。みっともないところを見せちまったな……。」
強がって笑う顔がどこか痛々しかった。
いつも堂々と前を向いている少年。
天才と呼ばれた彼はすぐに自分を追い抜いていった。
当たり前だと思っていた。
資質が違いすぎるのだと思っていた。
だが。
檜佐木は唇をかむ。
自分とは違いすぎたのだ。

覚悟が。

真央霊術院時代の親友との戦い。
どれほどの重荷であったことか。
真面目な彼が護廷大命に従わずに行動し続けた事がどれほどの覚悟を決めていたのか。
覚悟が違いすぎたのだ。
命令だけで動いていた自分と、命がけで責任を果たそうとしている彼と。
己の怪我の理由。
日番谷が強かったからなどという問題ではない。

心の油断。

百歩欄干で日番谷を捕らえたと思っていた。
吉良と2人で行けば何とかなると思っていた。
だが相手は命の覚悟を決めた手負いの獅子。
己の怪我は油断と心の甘えが招いた事。
それを今も日番谷にこうやって気遣われている。
檜佐木は日番谷を抱え込むとベッドに引きずり込んだ。
そしてぎゅっと小さな冷え切った身体を抱きしめる。
「なっ、何しやがる!!檜佐木!!」
「冷え切ってますよ。だから湯たんぽ代わりにでもしてください。俺に出来るのはこれぐらいですから。」
言われて。
日番谷は大きく息をついた。
「あんまり温かかったら眠っちまうかもしれねぇぞ。」
「寝てください。時には休養も必要です。ただでさえ、お疲れでしたでしょうから。」




やがて。
すーすーと気持ちよさそうな寝息が腕の中から聞こえてくる。
天才と呼ばれ、落ち着き払った少年が少年の顔のまま、おとなしく眠っている。
『隊長か……』
遠い遠い地位。
必要なのはたゆまない努力。
彼は資質だけではなく、その努力を怠らなかったからこそ、氷輪丸を従えて隊長となりえたのだ。
「負けませんよ……」
檜佐木は呟いた。
努力していつか名実共に隊長になって、尸魂界を守る。
ただ、今はこの小さな隊長に胸を貸すひとときを大事にしたい。




大事な事を教えてくれた心優しい隊長を。(おわり)

(おまけ)
「修兵……」
気がつくと、乱菊が檜佐木を覗き込んでいた。
「何、うちの隊長を独り占めしてんのよ!」
「ら、乱菊さん!!」
檜佐木は慌てた。
乱菊の日番谷独占欲の強さは有名だ。
強引に十番隊に日番谷を引き込んだのは彼女の根回しによるともっぱらの噂である。
檜佐木は必死でぶんぶんと首をふった。
「い、いえ……その……」
だが乱菊がそれで収まるわけが無い。
ずいっとでかい胸を出してくる。
「うちの隊長に手出ししようって訳?いい度胸してるわね……」
その言葉に檜佐木は更に慌てた。
自分が惚れているのは乱菊なのだ。
誤解はされたくない。
というより嫌われるのは絶対嫌だ。
だが乱菊の目はじろっと檜佐木を睨んでいる。
と。
「うるさい……」
檜佐木の腕の中で日番谷が呟いた。
「静かに寝かせろ……」
そう言うとむにゃっと言って目をこすり、再び檜佐木の胸に顔を寄せ、すーすーと寝息を立て始めた。
それに乱菊が泣きそうな声で呟いた。
「たいちょー……。修兵の胸でそんな可愛い仕草しないでくださいよう……。」
だが乱菊の願いもむなしく。
日番谷は檜佐木の胸の中で気持ちよさそうな寝息を立てるだけであった。
そして檜佐木は。

乱菊と日番谷にはさまれてこれから先どうするか考えると、少しも眠れそうになかった。(終わり)


コメント
檜佐木も好きですよー(笑)
サイトの方で販売している、BLEACH映画第2弾の小説本「過去の贖罪を求めて」よりです。
本当は最初の方に草冠もいます。
とりあえず、檜佐木の小説を出してみました。
良かったら感想お待ちいたしております。
サイトの方も良かったらご訪問お待ちいたしております。
作品名:覚悟 作家名:ひすいりん