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興味と劣情と恋情の違い

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何回も、何回も。

あなたを犯す、夢を見る。


そう告白されて、ディーノは少しの間凍りついた。
思考だけはぐるぐる回っていて、言葉の真意を探っている。
初対面で「グチャグチャにしたい」と言った、延長なのか。
ファミリーと自分を養うことで精一杯で、未来よりも今をどう生きるかばかり考えている自分の心に、無理やり押し入りたいということなのか。
それとも全く額面どおり、性的な意味合いで、自分を抱きたいと言っているのか。
ぐるぐる考えるディーノを前に、爆弾発言をした少年は、可愛らしく小首をかしげている。
「驚いた?」
「驚くよ! なんだ、急に!」
「いい加減、見るのに飽きたから、はっきりさせようと思って」
雲雀は足を組みながら、対面でソファに座った男を見据えて聞いた。
「僕のことどう思ってる?」
「どうって……」
「かわいいとかかっこいいとか不細工だとか憎たらしいとか顔も見たくないとか、何かしらあるだろ」
考え込んでしまったディーノだった。
顔も見たくないとは間違っても思っていない。そう思っていたらこんなところでのんきに茶なんか飲んでいないし、わざわざ痛い思いなんかして鍛えてやろうとも思わない。勝手に何処かで野垂れ死ねと突き放していただろう。
憎くもない。憎むような要素がない。一匹狼の暴れん坊だと聞いていたから、万一部下に手を出されてはと心配していたが、幸いにもこの狼には分別があった。
かわいいだとか不細工だとかは、そうした分類をすべく彼の容姿を見たことがないので、わからない。
かわいいというような少女的な顔立ちでもないし、育てばそれなりに男前だろうが、まだ頬にあどけない丸みの残る十五の子供を相手に見蕩れるほど酔狂でもない。獲物を見つけたときの顔が恐ろしく不穏なのは認めるが、普段はいたって平凡な、何処にでもいる少年である。
「か、考えたこともない……」
としか答えようがなかった。
唸るようなディーノの回答に、雲雀は「そう」と溜息をつく。
「僕はまだ舞台にも上がれていないってことだね」
テーブルの上で冷めてしまったコーヒーを取り、啜りながら呟く。
「舞台?」
抱えていた頭を上げて、ディーノは雲雀を見る。
「あなたの思考を阻害する人間に成り得ていないということ」
「恭弥、頼むから分かるように話してくれ。一体、何の話なんだ」
「だから、あなたを犯したくてたまらないって話だよ」
その、「犯したい」が大問題なのだ。
「犯す、って……」
おそるおそる問いかけると、言葉が終わらないうちに雲雀は持っていたカップをテーブルに戻し、にこやかに答えた。
「欲情するって言ってるんだよ。あなたを抱く夢を見る。そう言っただろう?」
叫びだしたい衝動をディーノは何とか抑え、両手に顔を埋めた。
「僕に望みはあるのか? 分からないまま想うのも不毛だからね。はっきり聞いておきたいんだ」
「それは、俺が、お前に抱かれる可能性があるのか、って話?」
「別に僕を抱きたいのでもいい」
さらりととんでもないことを言う子供だ。
「お前は俺に惚れてるのか……?」
呻くようにして問うと、雲雀は少し間を置いて答えた。
「どうかな。人に惚れた経験がないから、わからない。惚れるってどういうこと?」
「心を奪われること」
「……よくわからない」
「夢中になること」
「違うと思う」
「恋をすること」
「劣情に支配されるという意味では、そうだ」
ディーノは深くソファに沈みこんだ。そもそもどうしてこんなことになっているのだ。
「その対象がどうして俺なんだ……フツー女の子とかだろう。同性愛者なのか、お前」
「さあ。こういう気持ちになったのが初めてだから、わからない」
「男が好きなのか」
「男女ともに、あなた以外には興味がないよ」
「涙が出るほどありがたい台詞だが、目を覚ませ恭弥」
「起きてる」
「そういう意味じゃない!」
ディーノは声を上げて雲雀を見据える。
「興味を持ったのが俺だっていうなら、それは恋じゃなくて、俺と闘うことにってことだろ? それがどうしてセックスの話に飛躍するんだ」
「だって、赤ん坊にはこういう気持ちにならないもの」
「それはリボーンが赤ん坊の姿をしてるからだ!」
雲雀ははたと気付いた顔になった。
「そうなの?」
「あんな二次性徴もまだの赤ん坊じゃあ性的対象になりようがないって、本能が知ってるんだよ!」
「じゃあどうして、同性を性的対象として認めるの」
「お前の本能に聞け」
言い捨てて、ディーノは両手で顔を覆った。
作品名:興味と劣情と恋情の違い 作家名:JING