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風邪を引きました

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雲雀が熱を出した。
あまりに普段と同じようにしているから、少しの間気付かなかった。
けれど、聞くところによると風邪をこじらせて入院したりしているらしいし、本当に体調不良かは謎だが保健室の常連でもあるらしい。
春から夏。間に耐え難い梅雨を挟む季節の変わり目。
気をつけてやるべきだった。

洗い立てのシーツと、太陽の匂いがする布団。
その間に雲雀を放り込んで、頭の下にアイスノンを引いてやる。バンド式で、本来は眠気を覚ますために使っているものだから、少し勝手が違うのか、雲雀はむずかって何度か首を振った。
「水ここに置くぞ。リンゴ持ってくるから食って薬飲め。そんで寝ろ」
喉をひゅうひゅう言わせながら、雲雀は返事をせずふいと顔を逸らした。
声に苛立ちが混ざるのを抑えられない。
自己管理ができていないのは知っていた。戦闘の最中でも、自らの体の限界を無視して突っ込んでくる子供だ。
腹が立つ。
限界を知ることは、負けを認めることではない。
雲雀は限界を知らないわけではない。故意に無視しているのだ。
生ぬるい世界が与えた雲雀の驕りだ。
本当に動けなくなっても、死ぬことのない世界に生きてきたからこその傲慢だ。
馬鹿め。
倒れたら死ぬに決まっているのに。
ほんの少しの不調で、頭を撃ち抜かれるかもしれないのに。
だから、これから教えようと思っていたのだ。
自分の体を完全にコントロールすること。
体技だけでなく、体調も、できれば精神状態も。
限界を知り、死なないために退くことを。
それができない子供だと、知っていたのに。

しかめつらのディーノは、我知らず深い溜息をついて、台所にあったはずのリンゴを取りに寝室を後にする。
リンゴの皮むきは大変に苦手なので、洗ってそのまますりおろした。戸棚を漁ると蜂蜜が出てきたので、加えてかき混ぜる。酸味の強いリンゴの香りをかぎながら、子供の頃、風邪を引くと祖母が同じものを作ってくれたなとぼんやり思い出した。
死にたくなくてマフィアになりたくなかった。
傷つけて傷つけられて、痛い思いをするのなんてまっぴらだった。
心穏やかに、何ものにもとらわれず自由に生きていきたい。
そう思っていた子供の頃。
運命という言葉を、ディーノは好まない。
この言葉に対して、およそ幸福な記憶がないからだ。
運命は、ディーノを自由にはしてくれなかった。
そして、あの子も。

傷つけて傷つけられて、痛い思いをする世界に足を踏み入れるだろう。
死と隣り合わせの、拘束される日々が、あの子の未来には待ち受けている。
手引きをしているのは、誰あろう自分だ。

だから、恭弥。
死なないために強くなろう。
痛い思いは多分いっぱいするし、今ほど自由には動けなくなるけど、死ぬよりましだとは思わないか。
生きるために強くなろう。

そのための手助けなのだと、思うこと自体が欺瞞なのだとディーノは知っている。

寝室のドアを開けると、雲雀はすっかり布団の中にもぐってしまったようで、アイスノンと枕だけがディーノを迎えてくれた。
呼吸のたびに上下している塊に、逃げられたわけではないとディーノは少し安心して、そっと手を添えた。優しく揺する。
「恭弥、リンゴ。食いな」
返事はない。
「熱、ほっといても下がんねえぞ。すきっ腹に薬はいれらんねーんだ。ちょっとでいいから食いな」
根気よく何度か揺すると、布団の下でもぞもぞと動く気配があって、やがて上からひょっこり顔が出てきた。熱が上がっているのか、普段は紙のように白い頬が、ばら色になっている。
「食って薬飲んだら、寝てもいい。そのまま寝るのはなし。いい?」
リンゴの入った小鉢を、熱で赤く潤んだ目の前に差し出すと、案外素直に雲雀は体を起こし、小鉢を手に取った。よほど辛いのか。
額に手を当てると、じとりとした汗の感触の向こうに、楽観できない熱が感じられる。
一口二口、雲雀はスプーンでリンゴをすくって口にしたが、三口目でやめてしまった。
病人に強要するのもはばかられるので、ディーノは食べさせることを諦めて、解熱剤を手渡す。
「錠剤キライ」
ようやく口を利いたと思ったらこれだった。ディーノは思わず天を仰ぐ。
「この期に及んで何言うのお前は。何なら飲むんだよ」
「薬、キライ」
「張り倒すぞ。飲みなさい」
掴み取った掌に錠剤を落とし、グラスを押し付ける。
雲雀は親の仇でも見るようにディーノとグラスを睨んでいたが、そのうち諦めたのか錠剤を口に放り込んでグラスの水を飲み干した。
グラスから口を離し、心底いやそうに溜息をつく。
やがてディーノを見上げてきたので、いい子いい子でもしてやろうかと思ったら、おもむろに舌を出して言った。
「残った」
「子供かお前は」
「だからキライなんだってば。錠剤」
「普段どうしてんだお前」
「病院で点滴」
「そうなる前に薬飲んで自分で治すようにしろ。これから」
「溶けてきて苦いんだけど。吐いていい?」
「水汲んでくるからちょっと待ってろクソガキ」
小さな頭を本当に張り倒したくなるおのれを抑える意味も含めて、ディーノは大またに寝室を後にした。
作品名:風邪を引きました 作家名:JING