二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

めがね×いぎりす

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 





アメリカはほとんどすぐ音になろうとする声をすんでの所で飲み込んだ。口はひとつめの音の形に動いていた。 イギリス。呼ぼうとしたのに、声がでなかった。別にここが図書館だと思い出したからでも、口うるさい司書がいるからでもない。図書館なんてレポートの提出期以外はほとんど閑散としている。今日なんかアメリカと日本以外だれも来ていなかったし、一時間経った今もその状況はまったく変わらなかった。ドアが開く様子もなければ、他のつくえが埋まっている様子もない。書架の間から人の気配もない。

アメリカはその時日本の調べ物にくっついてきただけだったので、隣で貸してもらったコミックブックを読んでいた。
普段はそういう状況ならあれやこれやと日本に話しかけたりしているのだが、日本が作業に没頭するにつれちっとも返事をしてくれなくなったので、あきらめて貸してもらったばかりのそれを読み始めたのだった。でも日本が自分のところから持ってきてくれたやつだったので、全然ことばが解らない。それこそサムライだのニンジャだのが出てくるコミックならよかったのに全然違うみたいだった。それなら女の子が出てくればいいのに全然出てこない。ねえ、日本。退屈なんだぞ、 そう言おうとしたときだった。
図書館の入り口の引き戸が引かれる音がして、アメリカは思わず振り向いてしまった。もう何世紀ぶりかに聞いたような気がする。それぐらい、ここの空気はアメリカと日本以外の他者を知らなかった。誰だろう、 そう思ってそっちを見てしまったのがいけなかった。天井の明かり取りから差し込んでくる外の光が宙に舞う埃をきらきらと輝かせている。

入ってきたのはイギリスだった。彼が相手なら、普段でも声くらいかける。だからだ。アメリカは手をあげ、ついでに彼に挨拶をしようとした。退屈のしすぎで脳が半分ぐらいまひしていたのかもしれない──その時のアメリカはそれほどまでにうかつだった。
あ、 とまるでため息みたいな声が漏れた。自分が零したのだとは思いたくないぐらい気弱で、なんだか認めたくない何かがその根底にあるような気がした。
イギリスはめがねをかけていた。滅多にそうしてるのを見たことはない。書類を見るときだとか、本を読むときのためにイギリスもめがねを持っていることは知っていた。が、実際に見たのはもしかしたら初めてだったかもしれない。アメリカはそっと息をのんだ。
普段あれだけ子どもっぽい顔をしているはずの彼がまるで「そう」見えないので、単純に驚いてしまっただけだ。そうとも、そのはずだった。フレームのないめがねのレンズを介してみると、イギリスのひとみの色はいつもよりも少しだけかたくなに見えた。アメリカに息をのませるにふさわしい、どこか誰かをはねつけようとするようなその緑色の目。アメリカはまたひとつぐっと息をのんだ。
「アメリカ?」 イギリスがアメリカを見つけた瞬間、その緊張はまるで弱い糸を寄り合わせて作った結び目のようにほどけた。が、より強くなってすぐに戻ってきた。「なんだ、おまえ…珍しいな」
きみこそ、とかなんとか、普段のアメリカなら何でも言い返せたはずだ。イギリスは小さく苦笑していた。めがねをかけたままの目元に小さく呆れたような色と、それからアメリカに向けられるいつもの色が混じり合わさっている。いつもないよそ者がいるせいか、それがやけに誇張されて見えるような気がしてアメリカにはとてもじゃないが、耐えられなかった。椅子が大きく鳴くのを気にせず立ち上がると、アメリカはつかつかとイギリスに歩み寄り、そのめがねを奪い取った。
「い、って! 何すんだばか!」 
一緒に髪を引っ張ってしまったせいで文句を言われたが、アメリカはそれどころじゃなかった。
「…いつもの方がいいよ、イギリス」声が震えていたせいでまともにしゃべれていたかアメリカにも解らなかった。「その方がいい」
付け足すように言って、アメリカはさっきまで座っていた席に戻った。日本が怪訝そうな目を向けてくる。アメリカは自分の頬をぎゅっと押さえ、机に突っ伏したいのをこらえた──イギリスが多分、さっきのせりふを(まともに聞き取れていればだが)アメリカの言った正しい意味じゃなくて曲解するだろうなってことは解っていた。それでもよかった。自分以外の誰かがイギリスがそうしているのを見るくらいなら。
アメリカはため息を吐いてから、勇気を出してそっと後ろを振り返った。イギリスもアメリカの方に背を向けていて、どうやら入館の手続きをしているようだった。最初に図書館に入る際に入館時間と氏名を書かないとならない。今日は暖かいせいだろうか、イギリスはベスト姿で、ジャケットは腕に引っかけていた。彼が腕を動かすたびその華奢な背中に肩胛骨が浮いて見える。
アメリカが前を向こうと思ったタイミングをはかったみたいに、イギリスが入館手続きを終えてアメリカの方をそっとみた。それから、
作品名:めがね×いぎりす 作家名:tksgi