さて しあわせになりまして、
おうじさまとしんでれらはずっとしあわせにくらしました、のその後日談 で ある。
静雄さん、帝人は真夜中に及ぶパーティーとその後の騒動の末、しあわせにくらすこととなった静雄へ声を上げた。シンデレラと謳い呼ばれる彼は、しかし器量などは帝人よりもよっほど格好の良い男性である。継母の意向で女装させられていたのだと聞いた時は目を丸めたが、今ではそれをひっくるめ全て自分の好む非日常であると受け入れた帝人は、にこりとあどけない笑みを浮かべる。
「マドレーヌ頂いたんです、一緒に食べませんか?」
「・・・おう・・・じゃない、 はい 」
つつましく頷いたつもりなのだろう、静雄の態度はしかし、帝人から見ると鷹揚以外の何物でもない。自分がそういった態度に無頓着だったことも一因ではあるが、側近から延々と王子の隣には相応しくないと注意をうけたらしい静雄はああだこうだと思い悩みながら帝人への言葉づかいを改めようと奮闘しているようだった。
(いいんだけどなぁ、僕は 別に)
鷹揚な言葉も、それほど気心がしれたと思われているのであれば何ら問題はないのである。側近が何と言おうと、帝人は静雄の 一見荒っぽいながらもその実優しさが常に存在している声と態度が好きだった。
「折角だから紅茶淹れましょうか」
「おれが、」
座っててください。帝人はにこりと笑い、繊細な細工が施された茶器を手に取った。静雄は ぐ と言葉に詰まった様子だったが、軽く自分の手を握りしめ開く動作を繰り返し、はい と声を上げる。帝人は数秒考え、静雄を呼ぶ。
「マドレーヌを取り分けるお皿を用意してもらえませんか?そこに置いてあるのを 」
「・・・わか、りました 」
こくりと頷き、帝人よりも随分と高い背をいかして皿を取る静雄へ、帝人は仕方がないなぁと笑う。別に、帝人の声に反応した静雄は、細心の注意を払って皿をシルクのテーブルクロスがかけられた、アンティークの机の上に置いて視線を帝人へ向ける。
「気安く呼んでくだされば いいんですよ。僕は気にしませんから、せめて二人の時くらいは無理しなくても 」
帝人の提案に、静雄はぱちりと瞬きをして目を細めた。帝人は何か変なことでも言ってしまっただろうかと首を傾げながら、静雄の返答を窺う。静雄は軽く頬を染め、居心地が悪そうに あー と声を上げた。
「無理とか言うんじゃなくてよ、その あれだ。・・・折角なら似あいだとか言われてぇっつーか。 ・・・恥ずかしいこと言ってんな」
自分に苛立った様子で息をついた静雄へ、帝人はゆるゆると目を見開いて 静雄さん と呟く。静雄は照れくさそうに視線を逸らし、お互い無言の状態を払拭しようと だから と声を上げた。
「だから、もうちょっとだけ 無理させてくれ・・・いや、無理させてください 」
赤くなった静雄に感化されたように、帝人の頬が赤く染まる。帝人はか細い声で はい と頷き、こみあげてくる嬉しさを抑えようと唇を噛んだ。ちょうど良い温度を保っている紅茶を無言で注ぎ分けた帝人は、ことりと用意した紅茶を静雄に向けて ゆるゆると微笑んだ。
「嬉しいです、 無理、してくれるの」
「・・・しきれてねぇけどな 」
静雄は呟き、する、と紅茶を飲む。マドレーヌを取り分けながら、帝人は しあわせにくらす ことへ考察を深めつつも きっとこんなことだ と結論付けて幸福のまま笑った。
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けどいつかその無理を止めて、貴方らしい言葉をぶつけてくれても いいんですよ?
作品名:さて しあわせになりまして、 作家名:宮崎千尋