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報いの日を待っている

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嫌な予感がしていた。大人しく腰に回った手から伝わる微かな振動だけを支えに俺は、まだあまり慣れぬ街道をバイクで疾走する。



街中に配置された道路標識や自動販売機がいくつか不自然な形に変形していて、俺はそれを見るたびに歯軋りをするのに、帝人はそれを見るたび、ハっと息を呑んでそれから、数秒間、呼吸を忘れるようだった。俺はそれがたまらなく嫌で、いちいち帝人の名前を呼んだ。終わった。もう終わったんだ。お前は今から家に帰るんだよ。もう、帰るんだ。うわ言の様に呟く。でも実際それは、呪詛に近かった。呪ってしまいたい。いっそ。絡む感情が違うだけで、呪いも願いも結局同じだろう。同じくらいこの気持ちは強くて必死で、ドス黒かった。ぎり、と噛み締めた右奥歯が小さく砕ける。




「帝人、ついたぞ」
「・・・・・へ?」
「あなたのお家につきました。手当ては中でするからとりあえず降りろ」
「あ・・・・あの、すいません」
「いいから降りろ、とりあえず」




足はやられてないはずだから、俺は傷ついてない方の腕を軽く引いて帝人をバイクから降ろさせる。小さくよろけた帝人を軽く抱きとめて、先いってろ、と言い置いてバイクを道の端に寄せた。戻ってきても帝人は降りたその場所に立ちすくんだままで、まるで瞬間移動でもしたかのように、今いる場所がわからない様子だった。
呆けた頬を二、三度叩いてやる。無反応。埒が明かないと踏んだ俺はそれから帝人を担ぎ上げた。腹には一発食らっていたので、所謂お姫様抱っこという奴で、優しく。




「千景さん、ぼく、」
「喋れんなら内臓は傷めてねーな。切られたのは腕だけか?」
「え、あ、はい、多分・・・」
「とか言ってる間に発見しましたー米神、うっすらとだけど」
「こめ・・・・・?気付きません、でした」
「お前は囲まれたことにだって暫く気付いてなかっただろうがよ」




馬鹿にも程があるだろ。そう言い捨てて、怪我の治療を再開する。四畳半の真ん中に陣取っているのに、ケガに触れるたびに、俺だけ世界の一番隅に追いやられているような気がして苛立った。何だって言うんだ。包帯を巻きながら思う。帝人の世界には今一人しかいない。それが俺じゃない。それだけのことが今俺は、この世で一番気に食わなかった。



「・・・千景さん、聞いても、良いですか」
「・・・・なんだよ?」
「どうしたら、千景さんみたいに、強くなれますか」
「はぁ?」
「どうしたら僕、自分の身を、自分で守れますか」
「・・・・なんで俺に聞くわけ?」
「なんで、って・・・」



千景さん、強いから。いつも僕を、助けてくれるから。そう小さく呟いた唇を今すぐ塞いでしまいたかった。わかってんのに、お前は・・・!!!怒鳴りかけて、やめる。言ったってしょうがない。俺がこいつにとってのヒーローになる日なんてこない。わかってて俺は、こいつを助けに行った。静雄をつけねらう奴に目をつけられた帝人を、助けに行った。何度も。



「静雄に聞けよ」
「・・・・無理ですよ」
「なんで?お前の言うことだったら聞いてくれんじゃねぇの?」
「そうじゃなくって、静雄さんの力は、頑張って身につくものじゃないでしょう?」
「・・・・・・ああ、なるほど」
「だから、」




続く帝人の言葉を右から左に流しながら俺は成る程、理解する。静雄の力は異常だから、元々が違うから、駄目なんだ。だから俺はこいつの、ヒーローになれねぇんだ。帝人にとっての非日常は、いつだって帝人の得られないものの中にある。だから俺は一生勝てねぇんだ。すごく良く理解する。自分の立場も役割も同時にわかりすぎて、右の奥歯が完全に砕けた。




「千景さん、今日は本当に、ありがとうございました」
「・・・・いいよ、別に」
「今度は護身術とか、教えてくださいね」
「それは断る」
「えっ・・・・僕、頑張ります、から」
「つーか、巻き込まれねぇようにしろよ。静雄から離れろ」
「・・・・・・・それは、」
「・・・・・・・・・・(できねぇ、と)」




俯いた帝人の旋毛を軽くつつく。驚いて顔を上げた帝人の顎に手をかけた。ドアの手前、外界との最後の境界線で。今のは最終確認の代わりだった。
見開かれた瞳に俺が映り込むのを確認して、少しばかりの優越感に浸ながらゆっくり顔を近づける。軽く触れてそれから舌を押し込むと、帝人の眉が小さく寄った。血の味でもするんだろう。噛み砕いた右奥歯の痛みが帝人に伝わればいいのに。思い知ればいいのに。呼吸のために少し唇を離した瞬間に、俺は確かに帝人を呪った。血の呪い、なんてそれらしくて良いかもしれない。酸化して赤黒くなる辺りがまさに俺の感情にぴったりだった。






それから俺は帝人の顔を見ずにすぐさま四畳半から脱出した。自分の役割はわかってる。わかった。だから今日はここまでで終わり。バイクにキーを差し込みながら、メットの下でなんとなく笑う。開き直りと言って良かった。




静雄が帝人を非日常に連れて行く。否応なしに、引きずり込まれて帝人は傷つく。なら俺は、何度だって、どこでだって、帝人を日常に連れ戻そう。それが俺の役割だった。それでいい。それが、いい。帝人がいつか思い知る日まで俺は、俺の役割を立派に果たしてやろうと決めた。









見慣れぬ街をバイクで疾走しながら、右奥歯の呪いを味わうように舐めながら俺は、通りで俺じゃ駄目なはずだと自嘲気味に笑った。
帝人が呪われる日を心待ちにする俺が、帝人のヒーローになれるはずも、なかった(でも早く)(呪われてくれねぇかな)
作品名:報いの日を待っている 作家名:キリカ