理解不能リミックス
俺は、六条千景が苦手だ。悪い奴じゃねーし、門田達と仲良かったり、まあ、いい奴なんだろうとは思う。ただ、よくわからない奴だとも思う。
「静雄ー、久しぶりー!」
「・・三日前に会ったばっかだろ。」
埼玉に住んでるらしい千景を最近よく見かけるようになった。見かけるっつーか、むこうから声かけてくんだけどよ。まあ、うれしそうな顔で駆け寄って来る千景に嫌な気はしない。
包帯が取れた千景は、何が楽しいのか人懐っこそうな顔で笑って、俺の名前を呼ぶ。呼び捨てで。俺の方が年上なんだけどな・・・。
「三日も空いたら十分だって。つか、あんまり空けると静雄俺のこと忘れそうだし。」
「あー・・・否定はしない。」
「いやそこはしろよ!」
確かに、最初の頃は名前忘れてたな。あんまりしつこいから今は覚えたけど。
「んで、何か用か?」
「ああ、用なら今済んだ。」
「は?」
ああ、俺今間抜けな顔してるな。千景は無駄な爽やかさを振りまきつつニカッとまた笑って、
「俺静雄に会いたかっただけだから。」
わけわからないことを言った。
わけわからないことは、わけわからないから、俺は考えをそこで止める。
今日の夕飯何にすっかな。ちっ、冷蔵庫の中身見てくれば良かった。買い物・・あー、めんどくせえな。
「無視は止めろ!俺かわいそう!!」
「はいはい。」
「何だそれ!酷い!」
ギャーギャー喚く千景を無視して、夕飯の献立を考える。
やっぱめんどくせえ。買い物行って、部屋帰って、飯作って・・・。
宙に浮いた意識の中で浮かんだのは、視界の端っこに映るスローハット。
ああ、なんだちょうどいいじゃねえか。
「とゆーか、最近静雄俺に冷たい。無視するし、この前なんか俺の名前間違えるし、あ、やべへこんできた。」
「千景。」
「呼んだか静雄!」
コンクリートの壁に向かってグチグチと独り言をしゃべり始めた千景の名前を呼ぶと、キラキラした顔で即座に振り返って、いわゆる「待て」の状態になった。面白い奴。
「お前これから暇か?」
「暇!すっげえ暇!何々?静雄からのお誘い?」
「・・オムライスとか作れるか?」
「へ?オムライス?まあそれぐらいなら作れっけど。」
「そんじゃ買い物行くぞ。」
「待て静雄、俺よくわかってない。」
歩きだそうとしたら、ぐいっと腕を取られて止められた。めんどくせぇ。そんなに強い拘束でもない。俺にとって振りほどくことなんて容易い。ただ、面倒だからしないだけ。それだけだ。
「オムライス、食いたくなったから作れ。」
「そ、それって、静雄んち行ってもいいってことか?」
「・・・来ねえの?」
「行く!ぜってぇ行く!そんで、すっげえうまいやつ作ってやる。」
なんでこいつはこんな嬉しそうに笑えんだ。絡んでくる指も。隣に並ぶ気配も。やっぱり俺にはよくわからない。わからないから、握り返すことも、振り払うこもできない。
俺から千景に何かを返すことなんてできない。
なのに、
「ついでにデザートも買って行こうぜ。静雄は何がいい?やっぱプリンかな。」
「・・まかせる。」
六条千景はこんな俺の隣にいてくれる変なやつ。
だから、俺はこいつが苦手だ。