切望することが、どんなに無駄かということを知っている。それはとても処世術に似ていて、そして静かにナルトの中に潜むものだった。暗い意識の底にいつだってある、憎悪や怒りとも違う静かで穏やかなばかりの静かなる感情だ。それはいろいろなものから目を閉じさせるすべを知っていた。愛だの、夢だの、未来だの、今を生きることだけを考えてきたナルトに不必要なもの全てをそっと静かに隠して蝕んで、いつしか何かの感情が、あるべき形からすっかりと欠落してしまって初めて、ナルトはようやく思い出すのだ。それは恐怖であったり、理不尽であったり、子供が当たり前に抱えて生まれてくる我儘な存在欲とかだった。いつの間にか欠落していったものは、今だけをどうにかしようともがいているナルトにとって不必要なものだということだけは分かっていたから、欠落したとて、それを如何こう思う気持ちはナルトにはなかった。それが間違いであるとか、そんなことはどうだっていいとナルトは思っている。いつしかそれを、壊れていくように無くなっていく感情の起伏を、ナルトはもう恐ろしいとすら思えなくなっていた。生きていく上で当然必要なものを、生きていくために切り捨てていった残骸は、そうしてただのゴミとなり果て、暗い意識の底で静かなる手に隠されている。生きていくために、だけどそれは何のために?今更死にたくないというほどナルトは自分を大事にしているわけでもない。だから疑問は現れてすぐに消える。必要ないと、まるで切り捨てていくように。ナルトはそれを当然だと考えた。当り前で必要なことすらよくわかっていないまま、ナルトは当然のように切り捨てられていくものばかりを当り前だと思っていた。それはある意味とても悲しくて、あるいはとても幸せなものであった。
けれどときどき、ナルトは昔を振り返るときがある。不必要だったものは果して本当にナルトにとって必要でなかったのか?答えをナルトは知らないでいる。
(もし、それが大切だというなら、どうしてこんなに早くなくなってしまうんだろう)
ぼんやりとナルトはそんなことを考える。そして、誰も持たない答えを、ナルトはずっと待っている。