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ひとりと、ひとつ。

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俺様は「プロイセン」ではない。俺は、俺様は、こいつのケータイだ!



ムキムキしてるし、顔はいつも仏頂面だがすげー可愛いヤツなんだぜ。幸せなるときも、悲しいときも、寝てるときも、コイツと俺はいつも一緒だ。どこに行くときも、24時間、365日、一緒。…いやまぁ、流石にトイレまでは俺もついてはいかないけどな。

「待たせたな」
「待ってねぇよ」
「…そうか。…午後からのスケジュールを確認したいんだが」

ルッツは手を拭いたハンカチをポケットにしまうと俺を見やる。俺様はスケジュール機能も勿論装備している。俺を所有するコイツ、ルッツはいつもいつも忙しい。そして、分刻みで俺様のスケジュール帳はルッツの予定で埋まっている。そのスケジュール帳を開く。

「二時から、会議。会議内容は今度の経済対策についてだな。資料、準備出来てるぜ」

ブリーフケースから書類を取り出し、渡す。それにルッツは目を通していく。

「…ありがとう。助かった」
「どういたしまして」

コイツは所有物である俺にいつも礼を言う。当たり前の機能でこれくらい出来なきゃ、ケータイの端くれとしておかしいだろうが。でもまあ、礼を言われるのは悪い気分ではない。俺はルッツの後を追いかける。その瞬間、体にブルブルと痺れが走る。

「…っ、んんっ!!」

いつもマナーモードに設定されている為、いい加減、俺も慣れろと思うのだがこの何と言うか、ブルブル機能どうにかならないのか、変な声が出る。

「…んんっ、ん!」

ルッツは電話が掛かってきてもなかなか出ない。クソ!早く出ろ!!…色々、ヤバいんだよ!!放置すんな!!

「…アロー?」

たっぷり三十秒、時間を置いてルッツは漸く電話に出た。…もっと早く出ろ。震えてる俺を舐めまわすような目で見んな!…ブルブルの余韻が漸く抜ける頃、ルッツの電話は終わった。それを見計らって俺様は電話のたびに同じようなことを切り出す。

「バイブ機能切ってさ、サイレントにしようぜ」
「電話が掛かってきたのが解らなくなるだろう」
「いや、俺様がフツーに電話だって知らせてやるし」
「別にいいじゃないか。バイブで」

目が笑ってる。…嫌な奴だ。可愛くねぇ。しかし、所有者であるご主人様には文句は言えども逆らえないのだが、やっぱり文句は言う。

「バイブ、嫌なんだよ」
「どうして?」
「体ん中がブルブルってなるし、変な声でるしさ」
「可愛い声じゃないか」

満面の笑顔で気色悪いこと言うんじゃねぇよ。この変態が。…まあ、いつもこうやってはぐらかされて、オフにしてもらえないのだ。…計画を練らないと駄目だな、すげー、気持ちの悪い声を出すとかその場でのた打ち回るとかすれば、オフにしてもらえる……訳ねぇか…。コイツ、ドSだった。絶対、嬉々として放置するに決まっている。それを笑いながら眺める姿が簡単に想像出来た俺は計画を断念した。

「ヴェ~!ドイツ!」
「イタリアちゃん!!」

おお、目の前にイタリアちゃん発見!いつ見ても、可愛いぜ~。何で、あんなに可愛いんだろうなぁ。

「隊長、迎えに来たであります!」
「今日は遅刻しなかったな」
「えへへ。頑張ったんだ!ケータイのプロイセンも一緒だね。Ciao!」
「イタリアちゃん!!Guten Tag!!」

ああ、イタリアちゃん、超カワイイ、マジカワイイ!何で、こんな可愛い子がルッツの知り合いなんだ。ってか、こんな可愛い子を前にして、ルッツは何とも思わないのか?…勢い余って、ハグしようとしたら、ルッツに首根っこを掴まれた。邪魔をするなよ!どうせなら、俺、イタリアちゃんのケータイに……、……ルッツ、何で、お前、悲しそうな顔して俺を睨むんだよ?

「あなたは俺のケータイだ。イタリアのケータイになりたいだなんて思わないでくれ」

ケータイの俺様の思考を読むんじゃねぇよ。本当にこのご主人様は侮れねぇな。…ってか、俺様だって、お前のケータイで良かったと思ってるんだぜ。今じゃ、溢れ返るようにある高機能の新機種のケータイがあるってのに、旧機種のガタがいつきてもおかしくない俺をお前は大事に大事に使ってくれてるんだから。

俺様はイタリアちゃんに伸ばした手で、ガタいのいいご主人様をぎゅうっとしてやる。


「馬鹿だなぁ。お前あっての、俺様じゃねぇか」





ひとりと、ひとつ。





俺様とこいつはそんな間柄。






オワリ

作品名:ひとりと、ひとつ。 作家名:冬故