ホンモノニセモノ
ネオンに照らされる猥雑な街に十三夜の月を抱えた夜空から雪が降る。
赤、黄、緑。光に染まる雪。
飴玉のように見えるそれらに手を伸ばし掴みとって握ったところで、
溶けて消える。
「おう、チャイナ。何やってやがるんでィ」
夜のかぶき町。
橋の欄干に凭れ掛かりながら雪に手を伸ばす神楽は背後から声をかけられた。
振り返り沖田の姿を認めると、ガッカリしたように口を開く。
「何だ、オマエか。気安く声かけんじゃねーゾ。
私そんなに軽い女じゃないネ」
「言うじゃねーか、ガキが」
「オマエも、一緒アル」
フンと鼻をひとつ鳴して沖田は神楽に並んで欄干に背を預けると、
雪が落ちて来る頭上を見つめながら呟いた。
「オィ、チャイナ。オマエホントの夜空を見た事あるかィ?」
「いま見てるのは何アルか」
「贋物でさァ」
星の煌めかない空。明るく極色彩に光る天人の船が行く。
沖田の記憶に残る夜空には瞬く降ってきそうな満天の星。
近藤に肩車され、精一杯手を伸ばしても届かなかった。
光年に阻まれていて、でも確かに近くに在った景色。
「何いうか。今見てるのも本物ネ。宝石光ってるみたいで綺麗アル」
「やっぱりガキだねェ」
ライトで色めく夜空を見つめながら沖田はふと思い出した様に、
制服のポケットを探る。
「ガキにやらァ。俺ァ食わねえから」
差し出された何かを包んで丸めた千代紙。
「仕方ないから貰ってやるネ。ガキじゃないけどナ!」
神楽が受取って開いてみれば中に色とりどりの金平糖。
「…お星様」
「いつかは消えちまうもんなんざァ、本物じゃないんでィ。
…いけねぇ、時間くっちまった。早く近藤さん迎えにいかねえと」
そういって少し口許を緩めると欄干から背を離して沖田は歩きだす。
その背に神楽は問いかける。
「オマエのホントの空はいつ見れるアルか?」
「…ダンナに訊いてみな」
振り返り答える沖田に神楽が頷く。
沖田の姿が見えなくなって、
神楽は金平糖1つ口の中で転がしながら答えをくれるその人目指して歩き出す。
見せ掛けに騙されてもむなしい。本物は甘く。
溶けて消えてなくなっても心に残る。