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50グラム

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中学か高校の時に何かの授業でいのちについて聞いた。否、聞かされた。
陳腐な言葉をだらだらと並べて恍惚の表情で教壇に立つ教員。
まるで創造主にでもなったかのような態度だった。
俺の周りで教員が発する言葉にいちいち反応を示す生徒たち。
そのすべてに吐き気と嫌悪感を覚えた。

「ねえシズちゃん、いのちの重さってどれくらいかな。」
情事を終えた後、二人で衣服を纏わずに布団に潜っていた。
突然口を開いた俺に少し驚きながらシズちゃんは、はあ?と眉を寄せた。
「…シズちゃんはさ、俺が死んだら…っ、」
「どうしたよ、いきなり。」
声が震えてしまった。慌てて俯くと怪訝そうにこちらの顔を覗き込んでくる単細胞。
「何でも、ない、ごめん、忘れて、」

顎を掴まれ無理矢理目を合わせられる。

「…なんて顔してんだ。」
俺の眼には涙が溜まっていた。
今にも零れそうな程に。
「っ…、」
つう、と一筋頬を伝う。
それに舌を這わせながら「どうした…何、考えてる…?」
「…シズちゃんは、俺が、し、死んだら…泣いてくれる、の?」
「泣かねえかもしれねえ。けど、悲しい。ていうか、俺も一緒に死ぬ。」
シズちゃんなかなか死ねないよ、と少し笑うとシズちゃんもくつくつと笑った。
「で、なんでいきなりそんな事言い出すんだよ」

俺は少し黙りこんだ後、口を開いた。
「人間の、いのちは軽いんだ。」
いつもの様に流暢には話せなかった。
「前にね、こんな話を聴いたんだ。…人の、いのちは50グラムだって。死ぬ前と死んだあとに、体重を測ったら50グラムだけ、それだけ、体重が減っていたんだって。」
シズちゃんは静かに、俺の眼を見据えて、話を聴いている。
俺はシズちゃんの真っ直ぐな視線に耐えられず、目を逸らしてしまう。
「だってさ、例えば人間が一人死んだとしても、その死が今と過去、未来には何の差し支えも無いんだよ、だったらっ…」
「そんなちっぽけないのちなんて、別に無くなっても構わない、ってか?それともあれか。俺が死んでも喜ぶ人はたくさんだけど悲しむ人なんていないじゃないか、か?…手前は相変わらず解ってねえな。解ってねえ癖に、解ったふりばかりだ。」
ぎう、とシズちゃんが俺を抱きしめる。
「え、…?」
「お前が死んだら、もしも仮に例えば、お前が今ここで死んだら、俺は絶対に悲しい。確実に悲しい。本気で悲しい。」
シズちゃん、文法おかしい、と思う。けど次々に溢れる涙の所為で何も言えないでいた。
「例え手前の、俺の、全世界の生きてる奴らのいのちが50グラムしかなくても、俺にとっての手前のいのちは、測りきれねえくらい重いってことくらい、気づけ馬鹿。」
「ふぇ、ぅ…シズちゃぁ…っん」
ぼたぼたと雫をシズちゃんの肩に落とす。


シズちゃんは無言で俺の背中をぽんぽん、と一定のリズムで叩いてくれていた。



作品名:50グラム 作家名:89