触れた唇
始まりは、相馬さんのこんな言葉だった。
「…は?」
ある晴れた土曜日、シフトが入っていたので仕事場に行くと、不意に声をかけられた。
「や、別に…嫌いじゃないですけど」
「まあ、面と向かって嫌い、っていう人はいないよね」
「はあ、」
にこにこにこにこ、何を考えているんだろう。
読めない人だなあ。
「何でいきなりそんな事聞くんですか?」
「いきなりじゃないよ、前々からずっと思ってたんだ」
何が言いたいんだ。
よく解らない。
困惑した表情で相馬さんの方を見ると
相馬さんは少し怒った風に(彼が表情を見せるなんてそれはそれは奇跡のような事だ、なんて思ってしまった。)小さな声で言った。
「だって君は、小さいものがすきなんだろう?」
何も言えないでいると相馬さんはみるみる内に頬を赤く染める。
「苺みたいですね…可愛い」
「は、え、ちょっ…んむ、」
ちゅ、と軽くその可愛らしい唇に吸いついてみる。
「これで、伝わりましたか?」
にこ、と笑ってじゃ、俺着替えてきますね、と更衣室に向かう。
背後から聞こえた「伝わんないよ、馬鹿」という呟きは聞こえなかった事にしよう。