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サンキュー・フォー・ユア・ラヴ

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「アル!明日も出撃だって?」
プロペラの4基ついたオリーブドラブの機体の前で、がばりと真横から飛び
つかれ、その手が握っていたレンチが額にあたった。痛い。
「いたっ!ちょ、痛いじゃないかヴァル!」
「ついてないなアルフレッド、穴埋め要員なのに連戦なんて」
アメリカより一回りは年上に見える整備士に金色の髪をぐしゃぐしゃにかき
回されながら「うん、でも」と現在お世話になっている爆撃機を見上げた。
白いエプロンドレスの女性がキスを投げるノーズアート。
「次で規定の25回目だからね。そしたら俺も休暇さ!」
「そりゃ何としても帰ってこなきゃな」
「ああ。みんな絶対、本国に帰してやるんだ」
それはほとんどアメリカとしての言葉で、一砲手の大言壮語ではなかった。
この南イングランドの基地から新大陸の本国に、一人でも多く帰還させる。
前線のボマーに、コネを総動員して潜り込んでから、アメリカのその意志は
日増しに強くなっている。
正しい秩序を世界に。ヒーローたるもの己の犠牲は省みず、正義の為に邁進
するもの。今でもその考えは揺らいじゃいない。けれど、誰も彼もがグッド
ラックチャームを後生大事に身につけ、愛機に付けられるのは故郷の恋人の
名前。そんな現場で、それでも生命より大事なものがあるのだ、世界の為に
未来を捨てろだなんて言えなかった。
「ははは、がんばれよアル坊や」
「その呼び方はやめてくれって何度も言ってるだろ」
「そうかい、そりゃ悪かったな」
まるで相手にしてないんだと何より雄弁なチェシャ猫みたいなにやにや顔で
言われても、納得がいかない。ぶぅと頬を膨らませてもますます笑われるだ
けだった。
「そう拗ねるなよ。お前には期待してんだぜ、ルーキー・アル」
「本当にそう思ってるのかい」
「もちろんさ。腕はピカイチだってベル号の奴らも言ってる」
ならいいけどね、と生意気な仕草で肩を竦めて見せるのは、地が半分に演技
半分だ。
眼鏡を外してちょっと髪を崩すと自分でも悔しいほど幼く見えた。予想はつ
いていたし行く先々でキッズ扱いされるのにも慣れて、アメリカはうんざり
するより自国のスターばりに成りきる方を選んだのだ。
「本当に評判さ。一体どこで身につけたんだ?ここの前はどこの隊に?」
「腕がいいのは天才だからさ。あとは企業秘密だよ」
ばちんとウィンクをかまして、ヴァレンタインというロマンチックな名前を
持つ髭面のおやじを呆れさせたところで、ブロロロロと低いエンジン音が
近付いてきた。
「アルフレッド!」
ジープの助手席でロングコートを靡かせて身を乗り出すように立ち乗りした
将官が大声を上げた。軍帽をまたどこかに置き忘れてきたのか、鈍い金髪が
風に晒されている。
「ジーザス!もう見つかった……」
どうしたアル坊やと整備士が声を掛けるより早く、止まりきる前にジープか
ら飛び降りたイギリスが駆け寄ってくる。
「アル、アルフレッド!お前なぁ!」
「ハイ、アーサー。そんな何度も呼ばなくたって聞こえてるよ」
「うるせぇ、ばか!何やってんだお前、こんなトコで!」
「明日に出撃を控えた砲手さ。俺の担当は右」
「知ってるよっ。それをハイ・ウィッカムで聞いて飛んできたんだ」
「大事なミーティングには行ってるよ」
「このクソ忙しい時期に大事じゃないミーティングなんざあるかっ!」
しかも爆撃機ってお前高射砲にでも落とされたらどうすんだ、骨折じゃすま
ねぇんだぞっ。ぎゃんぎゃん喚きだすにつれて、イギリスの言葉も汚くなっ
ていく。ここには友人の整備士もイギリスを運んできた運転手もいる。慌て
てイギリスの口を塞ぎ、突然現れた英軍将校と口論を始めた新米に呆気に
とられてしまっている友人を振り返る。
「じゃあヴァル、俺らの箱舟を頼んだよ!」
「えっ…あ、おう、まかせろ」
「アル!明日の出撃なんて認めねぇぞ!」
「も〜君はちょっと黙っててよ」
アメリカの腕をもがいて外した途端怒鳴りつけてくる。戦時中はアメリカも
怯むくらい強固な意志と冷静さを見せるイギリスのこんな態度は久しぶりで、
しかもそれが自分を心配するあまり動転してなっているのだから嬉しい。
いつも怒ってばかりだけど、結局アメリカの異変には、それこそちょっと骨
折しただとかチョコレートが食べたいとかそんな事でもいの一番に駆けつけ
てくれるのだ。

バイ、と困惑顔の戦友に左手を振ってイギリスを抱え込んだままジープの後
部座席に乗り込んだ。こちらも困惑顔の運転手にゴーを言い渡して、それか
ら怒鳴り足りないであろうイギリスを何と言って説き伏せようか考える。
でもそれより何より、まずはありがとうって言うんだ。
スケジュールも何もかも放って、飛んできてくれた君に。
「サンキューイギリス、心配してくれて!」



                 <サンキュー・フォー・ユア・ラヴ>