【葬列】
お父様には禁じられているけれど そっと窓辺に立ち 常には閉じられているカーテンを押し開くと
館を囲む森の梢の向こうの街道を 黒い外套に身を包んだ村人の葬列が行くのが見えた。
先頭を行く棺を乗せた馬車に続く人々は 一様に頭までフードを被り項垂れている。
今年になって 何度 この光景を見ただろうか…
春先から始まった この止まる事のない悲劇の連鎖は 遠の昔に両の手の指では数えられないほどになっていた。
それでも、教会の墓地に埋葬された者は まだ幸運なほうだ…
既に村人たちは 増え続ける死者一人ひとりに墓標を宛がうことを諦め 村はずれに掘られた大きな穴に まるで塵屑のように 次々と遺骸を投げ込むようになっていた。
垂れこめた厚い鉛色の雲間の向こうから 重々しく遠雷が響き、
北から吹きつける強い風に ざわざわと揺れる森の木々が 嵐の近い事を口々に語ってるようだ。
陰鬱な物思いに沈みこんでいると 背後の扉を 控えめにノックする音
私は カーテンを手早く閉じると 急いで窓際から離れると 努めて冷静に聞こえるように返事をした。
「姉さま……」
手の込んだ装飾を施された扉の蔭から 遠慮がちに呼びかけたのは弟のイドだった。
お父様ではなかったことに 胸を撫で下ろしながらも 常には無い弟の様子に 私の胸は 湧き出た不安でいっぱいになり ぎゅっと固く手を握りしめた。
「どうしたの…?」
「父さまが…」
その日の午後に 私の家族で初めての死者が 村はずれの大きな墓穴に投げ込まれた。