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「世の中に、絶対の味方が一人居るというのはどんな気分だと思う？」
そう、蓮二に聞かれたことがある。
果たして幸村のことをどういう位置づけをしているのか定かではないが、奴は戯れのように時に禅問答のような一石を投じる。
「変なこと言うね。今日は何のデータ収集なんだい」
「深い意図はないさ。単なる思い付きだ」
いつもと変わらぬ涼しげな目元を眺め、ふうん、と納得した素振りはしてみせるがそうもいかない。
こういう他愛のない風を装う時こそ、一人で思い悩んでいる時があるのが困る。
しばし付き合ってやることにして、思考を巡らせた。
「そもそも、絶対の味方ってどういう状況なんだろう。一人に限定してるから、結婚相手とか？」
「男女の場合一番近いのはそうかもしれないが、そこには些か社会性や法律が状況に反映されすぎるな。肝は、もう少し心情的な部分だと考えている」
「心情ね……」
寝台の上で膝を抱え、物思いに耽る。
幸村の周囲には過去、敵と言い切っても遜色ない輩が犇めいていた。
いつから、誰が背負わせたのかもわからない鳴りもの入りで入学して、テニス部へ入部したときなど勝手に目の前に立ち塞がる者が後を絶たなかった。
……そう遅くないうちに、彼らは自分が足を踏み入れ、阻んでいた道が覇道であることに気がつくことになる。一年でレギュラー、そして全国優勝を果たす頃になると、表立った敵はいつの間にか霧散していた。
もし、幸村が「味方」を定義づけるとするならば、それは柳も含めた今のレギュラー陣かもしれないと思う。彼らは出会った最初から、幸村の前から逃げも隠れもしなかった。
そして……こうしている今も、つかず離れずの絶妙な位置に留まり続けている。
「じゃあ蓮二はさ、もし俺がその、絶対の味方になってくれって言ったらなってくれるの」
「……なって欲しいと願うのか」
「いいや特には。今までと同じならそれでいい。でもお前の知りたいこと、なってくれたらわかるのかも」
「そうか……本気でなくて良かった。俺はそれを約束出来ない」
思いがけず冷たく響いた言葉を漏らす蓮二に驚き、しかし平然としたその表情を見遣る。
「何でそんなこと言うのさ」
少し非難めいた色を含ませるとそれは誰のせいでもないのだ、と蓮二は幸村に教えた。
「今までずっと、俺は裏切る側にいるからだ。だから……そういうものを預けられるのは正直、怖しくて仕方がない」
また来るよ。そう言って蓮二は去った。――静けさに包まれる病室に、幸村ひとりを残して。
もし、その『絶対の味方がいる気持ち』がわかるのだとしたら、自分はこんな場所で孤独を抱えている訳がないのでは、と、背中の消えた扉を見つめながらぼんやりとそんなことを考える。
入院して間もない、まだ寒さの厳しい冬の頃だった。